198 古い時代の魔法がかかっている
「あの、ライラさんとスゥさんは……」
仲は悪いのだろう。
チョットマは居心地がよくなかった。
ライラからぽんぽんと出た自分の名前やハクシュウの名前、そしてスゥのこと。
すべてを見透かされた上で、頼みごとをするのは、最初から足元を見られているようなもの。
「スゥという女は、あたしゃ、大嫌いだね」
などと、ライラはだみ声で言うのだ。
どんなタイミングで、ホトキンのことを問えばいいのだろう。
ライラはスゥがエーエージーエスに閉じ込められて上機嫌。
今がチャンスだろうか。
しかし、ホトキンを連れて行くことは、スゥを助け出すことにもなる。
「あの女は、あたしの情報源であり、あたしはあの女の情報源でもある。つまり、持ちつ持たれつってわけさ」
ライラはそう言って、また酒をあおった。
「これは寂しくなるねえ。愉快だ、ユカイ!」
「あの」
チョットマは切り出そうとした。
ずばり、聞こう。
しかし、ライラに先を越されてしまった。
「その布地、見せておくれでないかい」
「えっ、あ、これですか?」
膝の上に置いた聞き耳頭巾の布。
チョットマがいいと言う間もなく、取り上げられてしまった。
「ふうむ」
無頓着にばさりと広げると、両手で掲げ、しげしげと眺めている。
欲しいと言われたら困る。
気が気ではない。
「いいものだねえ」
パパに大切にしろと念を押されたばかりだ。
「ただの布じゃない」
チョットマは、バードと出会えた暁には、これを返そうと思っていた。
「古い時代の魔法がかかっている。それもかなり強力な」
自分が持っていてもしかたのないもの。
本来の持ち主に返さなくては。
ライラは顔を近づけ、臭いを確かめている。
「そんじょそこらで手に入るものじゃない」
チョットマの思いをよそに、しきりに布を褒めている。
「いったい、どんな魔女が持っていたものなのか」
生地の織り目に指を沿わせ、感触を確かめている。
「荒地の魔女か、森の魔女か、はたまた泉の魔女か」
布を裏返し、光に透かしてみる。
「そうか、だからあんたはチョット魔か」
なかなかライラは布を返してくれそうにない。
「あの、もういいでしょうか」
「ああ」
と頷きながらも、まだ撫でる手を止めようとしない。
「あたしにも魔法の力がつきますように」




