表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/325

197 イチジク

「あんたのような子が、雇ってくれという用でこんな店に来たわけじゃないだろ」

「はい。そうなんです」

 チョットマは、これは案外、上手くいくかも、という気がしてきた。


「あの、ライラさん?」

「そうさ」


 老婆はもう正面を向き、こちらを見ようともしない。

「あの、お願いがあって」

「そうだろうとも」



 バーテンが、チョットマの目の前に、透き通った水色の飲み物をトンッと置いた。


「あんたのお願いとやらを聞く前に、あたしからも聞きたいことがあるよ」


 バーテンが見つめている。

「なにか、食べる物を頼んでやりな。それがこの男の取り分なのさ」

「あ、じゃ、えーと」

「イチジクでも剥いておやり」

 バーテンの目に喜びが灯り、小部屋に消えた。



「さあてと、スゥはどうしている」

「えっ、あ、お友達なんですか?」


 ライラがなぜスゥのことを聞いたのか、わけが分からなかった。

 チョットマは自分がまだ名乗っていなかったことに気がついた。


「友達? バカをいうんじゃないよ。あいつは敵」

「敵、ですか……」


 スゥとライラがどんな争いをしているのだろう。

 それはさておき、自己紹介しなければ。


「あの、私」

 チョットマだというべきだろうか。

 それとも、でまかせを言うべきだろうか。



 が、ライラは、耳に顔を寄せてくると「ハクシュウ隊のチョットマ」とささやいた。

「はい……」


 ふわりといい香りがした。


「それは通称かい。それにしてもあんたの親は、面白い名前を娘につけたんだね。古い日本語で言うと、少しだけ魔物ってことになるねえ。どうみてもあんたは、日本人には見えないけど」

「はあ……」

「で、どうなんだい」



「あの、スゥさんは今……」


 話せば長くなる。

 しかも、ライラとは敵だという。

 ただ、聞かれた限りは答えなくてはいけない。



「エーエージーエスというところに閉じ込められています」

「ハッ! とうとうあいつも焼きが回ったか!」


 老婆がさも面白そうに笑い、グラスの飲み物をぐいっとあおった。

「うはは! それは愉快!」



 チョットマもグラスに口をつけた。

 今まで飲んだどんなものより、おいしかった。


 バーテンがガラスの器に載せた、赤い果物を持ってきた。

 それは見たこともない果物で、ジュワリとした甘みがあった。


「うわ、おいしい」


 バーテンが、ニッと笑った。

 チョットマも少しだけ微笑を返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ