196 ソーダー水
店には、カウンター席が十五ほど。
スタンディングテーブルが三つ。
奥にはラウンジソファがいくつか。
客は、奥のソファと、スタンディングテーブルに数人ずつ。
チョットマが入っていくと、視線が一斉に集中した。
スタンディングテーブルには人相の悪い男達。
目を合わせないように奥へ進むと、ソファの男と目が合った。
あれが、将軍様ね。
布でできた軍服を着て、ピカピカ光る勲章を胸にたんまりぶら下げている。
実際の戦闘では、そんな格好じゃ何の役にも立たないよ。
あんた、本当は戦闘なんて、したことがないんだろ。
フン!
その相手をしながら歌を口ずさんでいる女が振り返り、目があった。
チョットマは思わず声をあげそうになった。
顔の真ん中に大きな目がひとつきり。
その巨大な目が瞬きをした。
うわっ。
え、色っぽい。
上下の睫毛がものすごく長い。
美しいというのも妙だが、その女は人を惹きつける何かを持っていた。
チョットマは男が引いてくれたハイチェアに、ぎごちなく尻を載せた。
老婆とは、間に二つのチェアを挟んでいる。
声を掛けられない距離ではない。
何か注文を頼まなければ。
焦るが、目の前にあるボトルは見たこともないものばかり。
そもそも酒というものを飲んだことがない。
バーテンは、チラリと見たものの、グラスを磨く手を休めようとしない。
えっ。
その手を見てチョットマは驚いた。
グラスを持つ手に指がない。
布を持つ手には指がたくさん。
バーテンは少し悲しい目をしていた。
「パパ、どうしよう」
「ノン・アルコールをなにか、と」
チョットマは、そう言おうとしたが、つい余計なことを付け加えてしまった。
「ソーダを」
途端に、後ろからけたたましい笑い声がおきた。
「ソゥダァー水!」
「ここは大人の来る場所だよ。緑毛のソプラノのお嬢ちゃん!」
「なにを頼めばいいか、おじちゃんが教えてあげよう。こっちにおいで!」
その不潔な声に、罵声が飛んだ。
「おまえ達! この娘はあたしが呼んだんだ! 文句があるのか!」
老婆だった。
スタンディングテーブルの男達は、一瞬のうちに縮こまってしまった。
「ソーダにアップルシロップでも入れてやりな」
バーテンが頷いて、後ろのボトルラックからそれらしきものを取り出した。
「さ、こっちへおいで」
老婆が自分の横の席を、パシッと叩いた。
老婆は、ラメ入りの赤黒いドレスを着ていた。
髪は色とりどりのカラーで染められ、どうなっているのか分からないほどいろいろな角度に逆立ち、それでいて調和が取れているような凝ったセットがしてある。
化粧はしていないのか、ふやけたような白い顔に無数の小さな皺。
かなりの高齢なのだろうが、声はしっかりしている。
目つきも鋭く、見つめられるとすくんでしまいそうだった。
「ありがとうございます」
チョットマは小さな声で礼を言って、席を二つ移動した。
ホール係がまたサポートしてくれる。
「あたしに用なんだろ」
唐突に言われて、チョットマはたじろいだ。