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194 まるで、まじない

 ンドペキが瞑想の間を出てから、三時間が経つ。

 洞窟はどこまでも続いている。

 通路は狭く、深い闇が続いていた。


 これじゃ、朝の決戦に間に合わないな。


 敵を挟み撃ちにする作戦は立てられないかもしれない。

 しかし、出口が見つかれば、洞窟に立て篭もりながらも安心感がある。

 後退しつつ、敵を減らしていくという作戦も立てられる。



 自然にできた洞窟だが、通路はほぼ水平に伸びている。

 人が穿った跡もある。


 右へ左へくねくねと折れ曲がり、見通しは悪く、しかも歩きにくい。

 瓦礫が積み重なって床を形成している部分もあったが、ほとんどの区間は巨石の重なりの隙間にしか過ぎない。

 空中走行ができなければ、進むに難渋するだろう。



 出口はないか、枝分かれしているところはないか。

 確認しながらの走行である。

 心は焦るが、前進はスマートとはいかない。


 ただ、所々に少々広くなっているところもあるし、上下に落差のあるトンネルもある。

 極端に狭くなって、人ひとりが屈んで通れるのがやっと、という狭隘部もある。

 万一の時、荒地軍を待ち伏せするに適したスポット。

 ンドペキはそういう位置を記憶しながら、先を急いだ。




 スゥの言った、危険な男を気にしていないわけではない。

 完全武装しているし、前方をライトで照らすだけではなく、スキャンも飛ばしながら用心深く進んでいる。

 特に、広い部分に入るときには入念に、その全域を確認してから足を踏み入れた。


 どう危険なのか、よく聞いておけばよかったな。




 また、ひとつの小広間に出た。

 五つ目の広間である。

 例によって、広間の入り口で立ち止まり、くまなくライトを照らしてまずは様子を見る。


 赤外線で探知。

 磁気は?

 電磁波は?

 異常はない。


 エックス線でも、壁や床や天井をスキャニング。



 と、おぼろな影が見えた。

 壁の一部に空洞がある。

 幅五メートル、高さ二メートルほど。



 空洞があることはわかるが、厚い岩に遮られて、そこに何かが潜んでいるかどうかまでは分からない。

 しかし、何かいる。

 直感的に、そう感じた。



 ここか。



 あいつは、彼といったな。

 人間の男であれば、相手になるだろう。

 しかし、殺傷装置であれば厄介だ。

 あのチューブでの出来事を考えると、身の毛がよだつ。




 様々にスキャンを試みたが、形は捉えられない。

 動物とは限らない。

 マシンかもしれない。

 ンドペキは、その痕跡を広間に探した。


 そこは、ごつごつした岩が散乱するだけだったが、そのひとつに目を留めた。

 小さな岩だが、平らな面が真上を向いている。

 その面に、有機物の小片が認められた。




 洞窟内にも、小さな虫やクモが棲息し、地衣類などがかすかに生えている。

 しかし、その有機物の小片はきれいな正方形をしていた。

 自然に存在するものではない。


 テーブルか。

 ということは人間か。


 ンドペキは心の中でそう言い、スコープを熱反射モードに変えた。

 何も写らない。

 感度を上げていく。

 小さな生物なら、かなり感度を上げないとスコープの小さなモニターでは埋もれてしまう。




 ん。


 正方形の小片にかすかな熱反応がある。


 ふむ。


 もうひとつの小片が目に止まった。

 別の岩があり、こちらも水平面を上に向けている。

 そしてまたひとつ。



 テーブルは三つか。

 センサーか、何かのスイッチ……か。


 それらを仔細に観察しようとするが、離れているせいでよくわからない。

 少なくとも一番手前のものに、有機物の反応があるだけだ。



 まるで、まじないだな。


 ンドペキは、そんな軽口を自分に投げかけて、心を落ち着かせた。

 そして改めて、広間を見渡した。




 これまで通ってきた広間に比べて、格段に規模が大きい。

 瞑想の間と同じくらいのホールである。

 しかも、やはり右手には淵がある。




 んっ!


 ンドペキは重要なことに気づいた。

 出口がない。


 クッ、行き止まりか。


 ここに到達するまでに分かれ道はなかったはず。

 見落としたのだろうか。


 背筋が冷たくなった。

 とんでもないミスをしてしまったのではないか。

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