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193 怖くてがちがちだし

 ひとりでホトキンを探す。

 それしかない。


 できるのか……。

 しかし、あの場所にまた行かねばならないのか……。

 かといって……。



「パパ、どうすればいい?」

 フライングアイは、しばらく考えているようだったが、やがてはっきりと声を返してきた。

「まず、中央広場にハクシュウが来ていないか、確かめなさい」



 ようやくのこと、チョットマは自分がどこにいるかを確認し、中央広場に向かった。

 ハクシュウの姿はない。

 伝言のようなものも見当たらない。


 フライングアイがささやいた。

「君は、あそこでふたりの兵士に顔を見られた。でも、見咎められなかった」


 パパがヘルシードに向かいなさい、と言っているように聞こえた。

 そこでホトキンを知っているかと、老婆に聞くのだ。

 プリブが殺された今となっては、自分が。

 そうするしかない。




 ハクシュウの言葉を思い出した。

 君が、隊員の中で、最も顔を知られていない。


 あそこに戻る。

 チョットマは、心を決めた。

 もともと、自分が行く、とプリブにあれだけ言ったのだし。



 エリアREFに戻りながら、チョットマはパパともっと話がしたいと思った。

「ねえ、パパ」

 さっき聞こえた声の話をした。


「そうか、将軍がお忍びで来てるんだな。将軍というのは何人いるんだ?」

「知らない」


 このような状況で、バーに遊びに来るとは。

 防衛軍は堕落している、とチョットマは思った。



「ひとつ目っていうのは?」

「わからない」

 そういうあだ名のホステスでもいるのだろう、とパパはいう。


「それにしても」

「なに?」

「驚いたな」

「え?」




 チョットマは、自分の心に変化が生じ始めていることに気がついていた。


 ハクシュウやプリブの死は悲しい。

 しかし、もう過ぎたこと。

 そんな思いがし始めていた。


 あれは悲しみではなかったのだろうか。

 ただ驚いただけだったのだろうか。


 それとも、まだ実感が伴わないだけなのだろうか。

 ふたりとも、死体を見ていないから?


 本当の悲しみはこれからやってくるのだろうか。


 それならそれでいい。

 私には、しなくてはいけないことがある!


 今までは、なんの役にも立てない女だった。

 今回は、私が、私が、しなくてはいけない!



 悲しんでいる時ではない!

 恐れている場合ではない!


 そう考えている自分が、驚きだった。

 パパもそのことに驚いたのだろうか。




 しかし、パパはまったく予想もしなかったことを言った。


「チョットマ、そんな声を聞いたんだね」

「うん。怖かった」

「うーむ」


 驚くようなことではない。

 実際に聞こえたのだから。

 中には幻聴もあるだろうが。



「今も、たくさん聞こえるよ。今は、ほとんどがうめき声とか、泣いてるような声だけどね」

「……」

「きっと、幻聴。疲れてるし、なんていうか、緊張でガチガチだし」

 パパから返事はなかった。




 エリアREFの入り口、小さなビルの前まで来たとき、パパが言った。

「ちょっと待って。もう少し歩きながら話そう」

「うん」


 しっかり聞いてくれ、とパパが言う。


「君が被っているそのショール、それはやはり、聞き耳頭巾。ん……、つまりその布を織り込んで作られたものじゃないかな」

「えっ、バードさんの?」

「そう……」




 ボロボロになって原形をとどめなくなった頭巾を解き、金属糸やカーボン糸と撚り合わせて織り直したのではないかという。


「君は、たくさんの声を聞いている。しかし、僕には何も聞こえなかった。静まりかえっていると思っていたのに、君はうめき声や泣き声を聞いたんだろ」

「……」

「さっきの将軍の話なんかも聞いたんだろ。しかも、はっきりと」

「うん……」

「チョットマ、君は……」



 チョットマにもパパの言いたいことは分かった。

 とはいえ、反応のしようもない。


「聞き耳頭巾を使えるんじゃないか」

「んー、でも……」



 でも、それって、大の字が五つも付くような大昔、何百年も前の話。

 だいたい、私は生まれてこの方、小鳥というものさえ見たことがないのよ。



「なんとも、うれしい!」

 パパが久しぶりに弾んだ声を出した。



「さ、お婆さんに会いに行こう。長話は無用。その布地、大切にしてくれ」

「うん、わかった」

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