188 やけくその提案
ンドペキはKC36632を洞窟の入り口まで送った。
「お願いがあります。また共闘を」
KC36632は、その依頼を想定していたのか、即座に断ってきた。
「大変申し訳ないのですが、それはできません。我々は今、地球人類にお願いを申し上げている立場です。あなた方同士の戦いに参加するわけには参りません」
地球人類同士の争いに巻き込まれては、自分達の要求が霧散してしまうという。
それは理解できる。
「あなた方の武力を頼んでいるのではありません。昨日のような」
KC36632は最後まで聞かず、これにも首を横に振る。
「昨日、あのようにさせていただいたのも、先ほど情報をお持ちしたのも、当方のJP01の意向でございます」
依頼されたからやっているのではない、あくまで自分たちの意思だというのだ。
「これ以上の援助は差し控えさせていただきたく存じます」
ンドペキは食い下がった。
「おっしゃることはよくわかっているつもりです。ですが、我々は非常に厳しい状況に立たされています。そこをなにとぞ」
KC36632のサリの顔から、ダメです、というような小さな吐息が漏れた。
レイチェルは、自分はパリサイドの要求を受け入れると、この使者に言わなかったのだろうか。
それとも、切り札として取っておくつもりなのだろうか。
ならば。
「ご使者の方に、大変失礼は重々承知しておりますが、JP01様にお会いすることはできませんでしょうか。それで、その、私をそちらに連れて行ってはいただけませんでしょうか」
なかば、やけくその提案。
しかし、KC36632の返答はにべもなかった。
「あいにくですが、JP01はほとんど毎日出払っております。今晩は戻りません」
万事休す。
諦めるしかない。
これ以上、KC36632を引き止めておくわけにはいかない。
スジーウォンに早く伝えてもらわなければいけない。
「残念です。失礼をお許し下さい。では、先ほどのスジーウォンへの伝言の件、よろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
「このたびは、ありがとうございました。JP01様にもよろしくお伝えくださいませ」
「コリネルス。頼みがある」
ンドペキは、洞窟の先の、別の出口に頼るしか手はないと思い始めていた。
敵の数を考えると、苦戦は見えている。
相手が誰であれ、隊員は人間との戦闘に慣れていない。
頭では分かっていても、目の前に人の顔を見れば、瞬時に撃てるだろうか。
ンドペキとて同じこと。
シリー川に向かったとき、スゥに発砲したが、その時の強烈な抵抗感はまだ心に、そして腕にも残っている。
となれば、逃げるにしかず。
どんなことがあっても、隊員を守りたかった。
失踪した自分を探しに来てくれただけでなく、誰からも嫌味のひとつも言わていない。
そればかりか、リーダーとして受け入れてくれているのだ。
もし、隊が壊滅するようなことになれば、隊員達に会わせる顔がない。
そもそも、隊員には、死の恐怖が薄い者も多い。
死んでは再生される。それを何度も経験しているからだ。
とはいえ、部下を死なせることはリーダとしてこの上ない恥辱。
指揮が稚拙であれば、部下から見放される。
もしそうなっても、元はと言えば自分が蒔いた種。
結局は自分の力の無さがはっきりするだけのこと。
どんな批判も受け入れなければいけない。
ただ、ハクシュウから託された任務を全うできぬとなれば、これほど情けなく、申し訳ないことはない。
KC36632が示唆したように、もしハクシュウが戦死したとなれば、絶対に隊を守りきること。
それが自分の務め。
「コリネルス、瞑想の間の奥の通路だが。早急に調査したい」
コリネルスはどんなときも冷静な男。
きちんと話せば、分かってくれるはず。
「あの通路の先には、もうひとつの出入り口があるそうだ。俺は、それを見つけ出したいと思っている」
状況の説明や、その理由を説明する必要はない。
打開策になるかどうかはともかく、袋の鼠にならなくてすむ。
コリネルスが賛意を示した。
ただ、今はまだ、自分が行くと話すタイミングではない。
指揮権を放棄するときではない。
スジーウォンが帰ってからだ。
次の指揮官は彼女だから。