表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/325

187 悲しんでいる時間なんてない

 平手で打たれた気がした。


「え……」


 ハクシュウが軍に追われていたのは、もちろん理解していた。

 しかし、隊長なら逃げおおせる。

 そう、信じていた。


「プリブ……」




 なんども深い息を吐いて、心を落ち着けようとした。

 飲み物を口にした。

 甘いバニラの香りがした。


「ねえプリブ、教えて。あの後、隊長がどうなったのか」


 プリブは目を落として、指先を見つめている。



「君には言わないでおこうと思ってた。ふたりでこの作戦を成功させなければいけなくなったことを」

「!!」



「君がどんな反応をするか、分からなかったし」

 驚きが退き始めると、体が震え始めた。


「俺達には、悲しんでいる時間なんてないから」

 震えと共に、体の力が抜けていくのを感じた。




「どうして……」


「隊長が旋回して北に向かったとき、俺はあわてた。その方角に、かなりの数のマシンがたむろしているのに気づいてたから。それを知らせたが、返事がない。俺は、自力でそのマシンをひきつけて移動させようとした」

「……」


「しかし、間に合わなかった」

「……」


「隊長もマシンに気づいた。西に急旋回した。しかし、そうしたことによって、軍との距離が一気に縮まってしまった」

「……」


「俺は迷った。このまま、街に向かうか。隊長を援護するか」

「そんな」


「いや、聞いてくれ。命令に従うなら街に向かわなくてはいけない。しかし、俺にはできなかった。できることは何もないけど。俺は隊長を追った」


 プリブの目に光るものがあった。



「運が悪いとしかいいようがなかった。前方に西部方面隊の一団がいたんだ」

「……」

「彼らも驚いただろう。大軍が迫ってくるんだから。彼らは戦闘隊形をとった。隊長に対してとった行動なのか、軍に対してとった行動なのか、分からない。たぶん、両方なんだろう」



 プリブが涙を拭った。

「ごめん。みっともないところを見せてしまった」

「ううん。それで隊長は?」


 聞かなくてもいい。

 でも……。


「追いつめられた。隊長は攻撃しようとしなかった。人を相手に撃てるものじゃない。そして……」



 チョットマの目にも涙が溢れていた。

 プリブの指が伸び、その涙を拭った。

 なされるがままにしていた。



「戦闘が始まった。先に攻撃したのは隊長を追っていた方の軍。でも……」

「……」


「その前に、隊長の姿はレーダーから消えていた」

「……」

「なぜか、それは分からない」




 それは最も恐れていたこと。

 システムによって消されたのだろうか。




「戦闘は一瞬で片がついた。西部方面隊は殲滅」

「そんなこと、どうでもいい! 隊長は!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ