186 危険人物って?
特殊な人を相手にするバー。
ただ、店はこのエリアREFの中でも、比較的治安のよいフロアにはあるという。
「その店には、この街の生き字引みたいな女がよく来る。たいていのことは分かるそうだ。もし知らなくても彼女は必ず調べてくる。かなり年寄りみたいなんだけど……」
「なにが危険なのよ! 全然危なくないじゃない!」
「いや、そこに今晩、危険人物が来るらしいんだ。それに、その店はひとり客専門で、ふたりで行くことはできないんだ」
「じゃ、私がいく!」
「なあ、チョットマ」
プリブが困った顔をした。
「なあ、ここは俺がリーダーだと思って、納得してくれないかな」
確かにハクシュウは、プリブの指示に従えといった。
しかし、引く気はない。
こんなところで、ぼんやり待っているのは耐えられない。
「そう、あなたがリーダーね。でも、聞くわ。その女の人に依頼するのは、あなたが適任なの? 面識はある? あなたの頼みなら、大至急で調べてくれる?」
プリブは首を横に振った。
「会ったことはない。正直に言うと、その店に入ったこともない」
「だったら、私でもいいわけよね。あなたは、変装して広場で隊長が来るのを待っていてもいいわけよね!」
「……」
プリブはその案を考えているのか、あるいはどう納得させるかを考えているのか、目を落としてリンゴを見つめている。
「危険人物って、いったい誰?」
「聞いてどうする」
「だって、知っておかなきゃ」
「だから、君は」
チョットマは、自分でも大人げないと思ったし、プリブの指示に従わなければいけない場面であることも分かっていた。
しかし、この状況に我慢がならなかった。
「ここで待ってるなんて、私は絶対にいや!」
「いい加減にしてくれ」
「私が行く!」
「これはハクシュウの命令だと思って、了解してくれ」
そんな卑怯な言い方ってあるだろうか。
チョットマは愕然とした。
しかし、そこまで言われると、従わねばならないのだろう。
「……わかった。でも、ここにいるのはイヤ。広場で隊長を待つ」
「それはダメだ。ここの方が安全だ!」
プリブが初めて声を荒げた。
「なぜ! 隊長がこの部屋に来るとでもいうの!」
「ハクシュウは来ない! 広場にもここにも!」
「そんなこと、あんたに分かるはずないでしょ! 連絡があったとでもいうの!」
「いい加減にしろ!」
プリブがテーブルをバンッと叩いた。
リンゴが転げ落ちた。
「ハクシュウが、隊長が、どうして来なかったのか、自分で考えてみろ!」