181 KC36632
大広間に現れた女は、サリそのものだった。
すらりとした長身にブロンドの長い髪。
そして愛くるしい、まさにサリの顔。
濃紺のジャンパーにジーンズ。
胸元にオレンジ色のシャツが覗いている。
「サリ、なのか?」
しかし、女ははっきりと首を横に振った。
「すみません。まだ、この体をお借りしております」
「クッ」
ンドペキは怒りを込めて吐き捨てた。
女がサリではないことは分かっていた。
サリは死んだのだ。
再生されずに。
もし、再生されたのだとしても、そう簡単にここに来れるはずがないのだ。
「名を教えてもらおう」
「KC36632と申します」
「用件を聞こう。あ、いや、その前に」
ンドペキは、姿勢も言葉も正した。
「お礼を申し上げるのが遅れました。昨日は、敵軍を撹乱してくださり、さらには当方の二名を送り届けていただきまして、まことにありがとうございました。感謝いたします」
KC36632が、ほのかに笑った。
笑った顔も、サリにそっくりだった。
奇妙な気分だった。
顔を借りるとか、体を借りるとはどういうことなのだろう。
やはり目の前にいる女はサリ、と思いそうになる。
ンドペキはこの幻覚を早く捨てろ、と自分にいい聞かせた。
目の前の女は、パリサイドの使者なのだ。
「では、ご用件を伺います」
パリサイドの女は平然として、落ち着いた声を出した。
「軍が迫っていることを、お伝えに参りました」
「あっ。で、状況は?」
洞窟の南西百キロ地点に、総勢約二百五十名の軍が駐屯しているという。
「目標は明らかに、この洞窟、あるいはエーエージーエスと思われます。野営していますので、明朝に出立するつもりのようです」
「ご一報をありがとうございます。あなたは、ここでくつろいでいってください」
ンドペキは立ち上がった。
しなければいけないことがたくさんある。
KC36632への対応をシルバックに命じて、部屋を出ようとした。
「お待ちください」
KC36632が呼び止めた。
「まだ、お耳に入れたいことがございます」
「はい」
「スジーウォン様の隊の状況です」
ンドペキはもう一度、女の前に座り直した。
「ただいま野営をしておられますが、敵の進軍経路に当たります。もしよろしければ、私が使者として参ります」
「ご厚意を深く感謝します。では、お願いいたします。急ぎ、ここへ戻るよう、お伝えいただけませんでしょうか」
「かしこまりました」
「ハクシュウ様についても、お知らせしたいことがございます」
「はい……」
「ハクシュウ様は、敵軍に追い込まれ、現時点で、お行方は掴めておりません」
「……」
頭にさまざまなことが駆け巡った。
いよいよ腹を括らねばならない。
「他に隊員の方が二名おられましたが、その方々はいずれも街に到達されました。私からの報告は以上でございます」
ンドペキは重ねて礼を述べ、部屋を出た。
「コリネルス!」
「おう!」
コリネルスには、KC36632との会話は通じている。
「すぐにこっちに戻ってきてくれ!」
「隊は?」
「そのままだ。警戒に当たらせてくれ!」
「了解!」
ンドペキはコリネルスと短く打ち合わせたのち、思うことがあって、再び大広間にとって返した。
レイチェルが、KC36632と話していた。