180 行き違いは、まだ、そう、たくさん……
ンドペキは、いつかはっきりさせておきたいと思っていたことを、今聞くべきだと思った。
「レイチェル」
と呼びかけたが、レイチェルは依然として厳しい目を向けている。
「聞きたいことがある」
「……」
「俺のことを、他の女に託して、何かしようとしていないか?」
もちろん、スゥ。
彼女は、誰かの指示を受けて、と言っていた。
ンドペキはレイチェルの眼に現れたかすかな動揺を見逃さなかった。
しかし、レイチェルはすぐさま瞳の揺らぎを消し去ると、
「ンドペキ、私の命令を」
最後まで言わせず、
「この洞窟、レイチェル、君じゃないのか。用意してくれたのは」と、問うた。
レイチェルの瞳に再び揺らぎがあった。
「話してほしいんだ。俺にはわからないことがたくさんある」
レイチェルは、フッと小さく息を吐きだし、
「……、ンドペキ、そうね……」
と、困惑の表情を見せた。
「……行き違いは、まだ、そう、たくさん……」
そのとき、洞窟入り口から通信が入った。
「サリです! サリが来たそうです!」
「なに!」
サリが!
どういうことだ!
「また、あのパリサイドの悪ふざけじゃないのか!」
「違うようです。顔だけじゃなく、背格好もサリそっくりですし、服も着ているそうです」
「おい、ちょっと待て。おまえ、サリの顔を知っているのか?」
「いえ、私が会ったんじゃありません。コリネルスからの伝達です。シリー川で顔を見ただけだが、間違いようがないと言っています」
ンドペキは唸った。
「コリネルス!」
「おう」
「会ったのか?」
「ああ。ここにいる。話は隊長にしたいと言っている」
「ウーム。コリネルス、交替だ。俺がそっちに行く!」
「待って!」
レイチェルが声を上げた。
「私も行きます」
「ダメだ!」
「どうして!」
「君は」
最後まで言わないうちに、レイチェルがはっきり言った。
「私を連れて行きなさい! 司令官として命令します!」
「ちょっと待ってくれ、レイチェル」
「早く用意をしなさい! そこのあなた! 私を起こしなさい!」
そう言われて、医務官とシルバックが硬直した。
そして、ンドペキに指示を仰ぐべく顔を向けた。
ンドペキはすばやく頭をめぐらせた。
もし、このサリを名乗る者がパリサイドなら、敵である可能性は低い。
チョットマとスミソを連れ帰ってくれているのだし、そもそもこうして訪ねてきている。
この洞窟も知られているというわけだ。
「わかった。レイチェル。でも、君を外に連れ出すことはできない。君の体は万全じゃない。サリをここへ呼ぼう」
「なんだと!」と、コリネルスが怒鳴っていた。
「ンドペキ! いいのか!」
「当たり前だ。サリは俺の部下だ」