177 嫌! 絶対にイヤ!
それからも何度か角を曲がり、そして下った。
廊下の突き当たりに、えんじ色のカーテンが下がっていた。
プリブがまた、身振りで、口をきくなと念を押してきた。
近づくにつれて、またしても強烈な臭いが漂ってきた。
人肉が焼け焦げて腐敗している、果物が腐敗している、カビが生えたきゅうりの臭い。
それに排泄物の臭いが混じっているような臭さ。
吸い込むだけで、一瞬のうちに体が崩れ落ちそうな臭い。
プリブがカーテンを開けた。
そこはベッドが五、六台入る程度の部屋。
相変わらず暗い。
と、隅に人影。
蹲っている。
黒いローブを目深に被り、顔は見えない。
まるで痩せこけたコウモリ。
ローブの袖がかすかに動いた。
プリブはコインを二枚取り出すと、ローブの人物の前に投げた。
「ふたり」
不思議なことに、コインは転がることなく、着地した床にぴたりと止まった。
袖が動き、ミイラのような皮だけの腕が伸びた。
指がぎごちなく動いて、鉤爪がコインを掴んだ。
プリブが小声で言った。
「ブーツを脱いで」
えええっ!
そんな!
ブーツの中には何も履いていない。
足の動きを確実にブーツの駆動部に伝えるためだ。
この汚らしい床に、素足をつけろというのか。
とてもできない!
しかし、プリブが黙って促している。
し、しかたがない。
か、覚悟を決めるしかない。
チョットマは、ブーツを脱ぎ、恐る恐る足を床につけた。
予想通り、床はぬるぬるして冷たく、それだけで正気が吸い取られていくようだった。
「荷物をそこに」
プリブがローブの人物の脇を指差す。
チョットマは、ためらった。
「早く」
言うとおりにした。
早速、黒い鉤爪が、荷物の中身をまさぐり始めた。
プリブが別のカーテンを開けた。
チョットマはそのときになって始めて気づいた。
小部屋にはたくさんのカーテンが下がっていた。
プリブの部屋って、このカーテンの中?
ここ?
い、嫌!
こんなところ!
嫌!
絶対に!
イヤだ!