168 半身のボディアーマー
「俺のボディアーマーには、体温調節機能が備わっている。保温したほうがいいだろ」
パキトポークは脱いだアーマーを前後に分解した。
「背中部分をこうして」
と、アヤの胸に被せた。
「スゥ、ちょっと助けてくれ。このベルトを」
パキトポークはアーマーの胸部のみを自分の胸に当て、後ろをベルトで締めてくれという。
言葉にならないほどうれしかった。
「しかし、それでは」
「親父さん。そんなこと言ってられないんじゃないか」
「しかし」
「敵が来たら、それはそのとき。この人を助け出せなかったら、俺はあんたにもハクシュウにも、隊員たち全員に顔向けができなくなる」
「……、すまない。ありがとう」
「礼は、親父さんがこの人とまた話ができるようになってから言ってくれ」
イコマは、何度もアヤに話しかけた。
「しっかりするんだ!」
そして、オーエンに向かって叫んだ。
「オーエン! 僕の娘を見殺しにしないでくれ!」
「ゆっくり行こう」
パキトポークが前を行き、スゥが後ろを担う。
「揺らさないように」
「パキトポーク」
スゥが小さく声を掛けた。
「なんだ」
「ごめんなさい」
「なんだぁ?」
「私があの時、飛び出さなかったら、あなたがここに来ることはなかった」
「おい! しみったれたことを言うな!」
「ありがとう」
「やかましい! とっとと行くぞ」
入り口まで戻る途中、パキトポークが何度も何度も「ゆっくりだ」と声を掛ける。
「あせることはない。ハクシュウがホトキンを連れてくるには、まだ時間がかかる」
そして何度もスゥを気遣う。
「持てなくなったら、すぐに言えよ。落とされたら困るからな」
「ありうがとう」
「ところで、この娘さんはアヤっていうんだな。バードってのは現在名か?」
「そう。タチバナアヤ。僕の娘だ」
何度目かに担架を下ろしたとき。
パキトポークが大声を上げた。
「オーエン! あんたのホトキンが来るまでの間、この女の人のことを祈ってくれ!」
と同時に、イコマは、
「チョットマを見つけた!」と叫んだ。
「ピンク色の布地を買っている!」
「はあ?」
イコマは、オベリスクでやきもきしているチョットマも気にはなるが、それどころではない。
担架には、虫の息のアヤが横たわる。
自分はといえば、スゥの肩にとまって、血の気のない寝顔を見つめるのみ。
チョットマ。
不安だろう。
街に戻ることはできたものの、自分の部屋に戻ることもできなければ、ひとりで作戦を遂行する手立てもない。
ハクシュウやプリブと出会えなければ、どうすることもできない。
万一、当局がその気になれば、彼女を抹消することは容易い。
その恐怖や不安を抑えこんで、オベリスクの基壇になすすべもなく座り、居ても立ってもいられない気持ちでバザールの中を歩き回っているのだ。
もうすぐ、夜が来る。
今はまだ広場は賑やかだが、数時間もしないうちに閑散とするだろう。
そうなれば、ここに座って待ち続けることもできなくなってしまう。
イコマは、女主人に布地を巻いてもらっているチョットマを横目で見ながら、ヘッダーの陰に身を隠した。