166 変態ピンクトカゲのミイラ
「かわいいお嬢ちゃんの兵隊さん。こんなところで油売ってると、憲兵に捕まってしまうぞ」
チョットマは腰を浮かしかけていたが、耳慣れない言葉に関心が向いてしまった。
「憲兵?」
「さ、もう一度、座んなさい」
チョットマが腰を落ち着けると、老人が耳元でささやいた。
「街中での武装は完全に禁止されたんじゃ。知らんのか?」
「今までもそうでしょ」
「危険じゃの」
老人は、一斉に取り締まっているという。
「街の外から帰ったら、うろうろせずに家に戻り、出かけるなら平服に着替えなくてはならん」
「わかってます……」
「そんな格好で、ソーダー水なんぞ飲んでおって。見つかれば、とんでもない目にあうかもしれんぞ」
「いつからそんなことになったんですか」
「今日からじゃ。朝、一斉に放送があっただろうが」
「えっ、知りませんでした」
「あんたんとこの隊長は、ボンクラじゃの。隊員にそんなことも徹底させんで」
「あ、いえ、そんなことは」
「早く脱ぐんじゃ」
老人はそう言って立ち去った。
そういえば、街に入ってから、防衛隊や治安部隊以外に、戦闘用の装備を身に着けている者は見かけない。
今まで、誰何されなかったのは運が良かったのだ。
困ってしまった。
どうしよう。
装甲の下にはバトルスーツを着用しているが、その姿になっても、ここでは目立つことこの上ない。
しかも脱いだものをどうすればいいのだ。
むき出しの大量の装甲や武器を抱えて、この雑踏を抜けて歩き回れるのか。
うむう。
まずいかも。
武装は解かなければ。
とりあえず胸部の装甲を外した。
どうする、どうする。
目の前の店に目が留まった。
あれだ!
チョットマはぴょんと立ち上がり、店の前に並んでいる布地を見た。
「これを三メートルください」
あれこれ選んでいる場合ではない。
とは思いつつ、
「あ、ごめんなさい。こちらのを」
「あ、やっぱりあそこの」
さらに自分に似合いそうな柄や色に目が移った。
店の女主人は腰に手をやって、いい加減に決めなよといわんばかり。
そんな顔で睨まれて、チョットマはエイヤッと、一つの布地を指さした。
「三メートルピッタリでいいんだね」
「は、はい……」
派手なピンク色に黒い水玉模様の布地。
その場でチョットマは、今買ったばかりの布を体に巻きつけた。
「あんたさあ、それじゃサマにならないよ。まるで変態ピンクトカゲのミイラじゃないか」
「はあ……、難しい……」
「脱ぎな」
女主人が見かねて、布地の端を引っ張る。
「あ」
という間に、バトルスーツ姿に戻された。
「こういうものはね、こう巻くんだよ」
女主人に手早く巻き直されて、ふわりとした着心地になった。
「あ、動きやすいです。ありがとうございます!」
女主人は、一歩下がり、
「うん、いい娘さんになったよ」と、目を細めた。
「おまけしとくよ」
布地を止めるピンと、腰紐を付けてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「脱ぐ前に、どう巻いてあるのか、よく覚えるんだよ」
「ハイ!」
オベリスクに戻ると、ヘッダーの後ろに隠れるようにして、フライングアイが止まっていた。