165 買ってみようかな
かなり長い時間、オベリスクの基壇に座っていた。
しかし、座っているだけでは、ハクシュウやプリブに会えないかもしれないと思い始めた。
もしかすると、広場の入り口あたりをうろついているかもしれない。
チョットマは立ち上がった。
行き違いになりませんように。
雑踏の中にまぎれていった。
ヘッダーをつけ、完全武装の兵士が雑踏を抜けていくのは、気が引ける。
だが、しかたがない。
人にぶつからないよう、気をつけて。
広場の入り口は六箇所ある。
順に見て回った。
しかし、どこにもふたりの姿はない。
中央のオベリスクに戻ろう。
「ふうん。この通りは生鮮食料品売り場ね」
小さな屋台、広い屋台、それぞれに売り子が声を張り上げていた。
売られているのは、いつも目にするものと変わりなく、たまに珍しい果物があるだけ。
それでも人々は賑わいを求めてやってくる。
品定めをしては笑いさざめいている。
この場の雰囲気を楽しんでいるのだ。
それらの食料品が、宇宙空間に浮かんだ生産基地で作られ、地上にもたらされたものであることを、誰もが知っている。
あるいはアンドロの手による作物であることを。
世界中の地域特産の変わった品種の生鮮品など、本当は存在しないのだ。
それでも、どこで手に入れたのか、珍しいキノコや魚などが並ぶ店もある。
そういった商品のある店は、どこも満員だ。
ふと、チョットマはそんな店の前で足を止めた。
「買ってみようかな」
普段、バザールなどで買い物をすることはない。
今、目の前に鮮やかな赤いリンゴが売られている。
いつも口にするものとは違い、かなり小さく色が濃い。
酸っぱいかも、と思ったときには手が伸びていた。
五つ、ください。
へへ、買っちゃった。
オベリスクにたどり着くと、早速ヘッダーを取り、マスクも外した。
一気に様々な臭いが、鼻をくすぐった。
ハクシュウはどんな顔をするかな。
緑色の髪の女の子がリンゴをほおばってる。
ハクシュウの顔を想像するだけで、この上なくうきうきした気分になった。
男がひとり、近づいてきた。
肉屋の親父のようだ。
白い服に、長靴。
服はやたらと汚れていて、生肉の臭いがする。
「やあ」
と、隣に座った。
チョットマは立ち上がった。
こんな風に声を掛けられることに、慣れていない。
逃げるにしかず。
幸い、追っては来ない。
なんなんだ。肉屋め。
チョットマは、またマスクをつけ、ヘッダーを被った。
リンゴは後ふたつ。
バックパックにしまいこんだ。
ハクシュウとプリブの分。
雑踏をひと回りしている間に、今度はソーダを買った。
紙箱入りでストローがついている。
それを持って、またオベリスクの基壇に座り込む。
早く来てくれないかな。
またヘッダーを外し、マスクを取ってソーダーを飲み始めた。
と、また近づいてくる者がいる。
今度は、老人だ。