155 女が適任
「きっと、ンドペキにはその洞窟とやらに篭って本部機能を果たせと言うだろう。コリネルスにはンドペキと共同して本部の周囲を警戒させるはずだ。残るはスジーウォンだが、消されてしまうかもしれない街にあいつを連れていくことはないと思う」
「ふむ」
「ハクシュウなら誰を連れて行くか……。違っているかもしれないが、その中にチョットマとプリブは含まれると思う」
「チョットマを!」
「ああ、あいつは、いわば孤独な乙女だ。街に知人友人といえる相手はいないはず。顔が割れにくい」
「……」
「どうした。かわいい娘が心配か?」
イコマはどう応えてよいか分からなかった。
不安が膨れあがる。
チョットマにもしものことがあれば……。
自分の不注意でアヤに不幸を与え、ひいてはチョットマにも危機を与えてしまうことになる。
「あいつが適任だと思うのは、もうひとつ理由がある。あいつはそんそじょそこらの武器で死ぬことはない。俊敏さは部隊一。どんな弾もあいつにはあたらない」
パキトポークは、敵は物理的な攻撃をしてくるはずだと言う。
なぜなら、強制死亡処置ならもうとっくにされているはずだから、と。
このチューブの百五十人然り、今朝襲ってきた二百人然り。
今ハクシュウを追いかけている五十人然り。
敵は武器による通常攻撃を仕掛けてくる、というのだった。
「そしてプリブは、変装の名人だ。そのための別室さえ持っている。どこにあるか俺達にも言わないが、当局にも感知されていない部屋だと自慢している」
予想は当たっていないかもしれないが、と断ってはいるが、自信はあるようだ。
「それに、ハクシュウはきっと男と女の混成部隊を作ろうとするだろう。今も昔も、街の情報を集めるには女が適任だ」
部隊にいる女は、スジーウォンを筆頭に、シルバック、チョットマ、それ以外に五名。
「シルバックの殺傷力はかなりだが、今回の作戦では相手を倒す場面はあまりないだろう。それにあいつは怒りっぽい。聞き込み調査には不向きだ。後の五人は、いずれもこれという特技はない。ん、そうだな……」
パキトポークは、ジルはもしかすると連れて行ってるかもしれない、と言った。
「飛び切りの美人、という噂だ。しかし、ま、ないだろう。色仕掛けなんて手はないだろうからな」
パキトポークとスゥは二手に分かれてチューブに倒れた死体を調べている。
二人合わせて、ちょうど八十人目。
スゥは全くの無言。
てきぱき移動し、しゃがみ込み、を繰り返している。
イコマは二人の間を飛び回り、ひたすら確認。
スゥがなぜここに飛び込んだのかは、聞けずじまい。
「男の方は、プリブ以外に誰か連れて行くかもしれないが、いずれにしろ、それほど大きな編成はしないはずだ」
パキトポークが、ふと思いついたように言った。
「ところで、あんた、バードという女とどういう関係なんだ?」
イコマは街に戻った。
戻ったところで、探す当てはない。
ハクシュウの部隊はばらばらになった。
きっとどこかで待ち合わせようとするだろう。
どこだろうか。
東部方面隊の本部や、着替え用の分室、隊員の部屋ではないはず。
街を流しながら、イコマは考えた。
念のため、チョットマの部屋の様子を見に行った。
変わったところはない。
しかし、見張りはついているかもしれないし、センサーやカメラが取り囲んでいるかもしれない。
部屋の前をやり過ごし、兵士が立ち寄りそうな店を見て回った。
兵器関係の店には、どの店にも、同じ紙が貼り付けてある。
「当局の指示により、当分の間、営業は中止しています」
街を飛び回った。
チョットマを探して。
パキトポークの推測が当たっていることを信じて。
ホトキンなる人物を探し出すという絶望的な気持ちを抑えながら。