154 追いつけないだろ
フライングアイは、砂埃を蹴立てている一団を見つけた。
軍か。
目を凝らした。
あっ。
イコマは思わず声をあげた。
ハクシュウ!
むむっ。
一団の兵から逃れようとしている!
大きな弧を描き、引き離しにかかっている!
無駄は承知だが、追いかけずにはいられなかった。
キュートモードでも、応答はない。
「パキトポーク!」
状況を報告すると、意外なほどあっさりした反応を返してきた。
「やはりな」
「ん?」
「どちらに向かうか。見ていてくれ」
最終的に、ハクシュウは西に進路を変えた。
どうするつもりだろう。
西には、北方と同様、深い森。
その先は急峻な山脈が連なっている。
山脈を越えると、砂漠地帯。
その只中にニューキーツの光の柱がある。
そこに逃げ込もうとしているのだろうか。
「よし、もう追わなくていい。追いつけないだろ。それより、周辺を探してくれ。ハクシュウひとりではないはずだ」
イコマは、ハクシュウを追うのを諦め、軍が通った経路を遡った。
見知った顔が倒れているのではないか、と不安もある。
しばらくそうしていたが、それも諦めた。
「よし、それじゃ、街に戻ってくれ」
「了解だ」
「案外早く、ハクシュウは街に向かったんだな」
パキトポークは、街で隊員を探して、オーエンやホトキンの情報を伝えることを最優先してくれ、と言った。
「ホトキンを連れてこないと、俺もスゥも、あんたのバードもここから出られない」
いわば人質。
オーエンの声はそう考えているだろう。
だから、アヤの居場所を教えないのだ。
捜索に時間をかけさせる作戦なのだ。
イコマは洞窟に向かうことを諦めた。
今、洞窟にいるのが、レイチェルであろうとアヤであろうと、パキトポークの依頼を断るわけにはいかない。
「まだホトキンの情報は掴めないか」
「まだだ」
「急いでくれ」
「分かっている。ところで、他に誰が街に向かうか、分かるか?」
「そうだな。ハクシュウなら……」
パキトポークは、死体を改める手を休めない。
しばらく間があった。




