153 緊張してきた
いよいよ街が近い。
いやがうえにも緊張が高まってくる。
しかしチョットマは、自分が思いのほか、平常心を保っているとも感じていた。
恐怖がないといえば嘘になる。
でも、逃げ出したいという気持ちは微塵もない。
かといって、必ず成し遂げる、という自信のようなものもない。
ないどころか、自分には無理だという気持ちの方が強い。
泣きたいかというと、そうでもない。
あるのはなぜか、感傷的な気分。
頭は自分なりに冴えている。
穏やかな高揚感、なんてなことをスジーウォンから聞いたことがあるなあ、と思った。
こんな気分になるのは初めてだった。
私、もしかすると少し成長したかも。
今朝、荒地軍の撹乱作戦に飛び出したから?
あれは自分でもびっくりした。
通常の敵ではなく、あんな大軍に向かっていくとは。
今から思えば、皆に心配かけたかも。
あのパリサイドが援護してくれなかったら、やばかったかもしれない。
それとも、この一連の騒動が私を強くした?
あっ、そうか。
単に睡眠不足かも。
だから変に頭が冴えてるなんて勘違いしてるのかも。
チョットマは、そんなことを考えている自分が不思議だった。
そろそろ街の城壁が見えてこようかというとき、前方から一団の軍が現れた。
その数約五十。
相手までの距離は十キロほど。
ハクシュウが右に進路を変えている。
チョットマはとっさに大きく左に旋回した。
後方にいるプリブは今の瞬間は、まだ直進だ。
荒地軍か!
あるいは、他の攻撃隊の一団か!
旋回しながら、ハクシュウの動きを確認した。
右へ右へとそれていく。
一団の軍が、左に旋回を始めた。
ハクシュウと相手との距離がみるみる縮まっていく。
ハクシュウを追っているのか!
ハクシュウはスピードを上げ、大きくユーターンするように、街から遠ざかろうとしている。
まもなく、三キロほどの間隔をあけてすれ違うことになる。
チョットマは進行方向を、再び街に向けた。
このまま行けば、あの一団の後ろを通り抜けることになるはず。
今のところ、相手に後続隊の姿はない。
プリブは?
姿が見えない。
あれ!
砂埃が立っていない。
空に舞い上がった砂粒が大気に拡散しつつあるだけだ。
数人の兵士の姿は見えるが、いずれもプリブではない。
どうしたの!
街に入る。
そのことだけに集中しよう。
チョットマは、もう後のことは考えずに突き進んでいった。
周りに、こちらに気をとられている者はいない。
すれ違ったハクシュウも、それを追っていった荒地軍も、もうどこにいるのかさえ分からない。
プリブの姿も依然として、確認できないまま。
街の城壁がかすんで見えてきた。
その見慣れたものを目にしたおかげで、ますます気持ちが引き締まった。
今度こそ、自分が本気で緊張している、と思った。