150 浜辺に落ちた一粒のビーズ玉
オーエンの身になって考えてみる。
資料によれば、オーエンはエーエージーエスの稼動中止に最後まで反対し続けた研究者である。
きっと今も強くそう念じているのだろう。
そして、あそこに特殊なアギとなって居座っているに違いない。
当然、現状の使われ方を腹立たしく思っていることだろう。
この状況を変えるにはどうすればいいか。
オーエンならどう考えるだろう。
その行動のために、ホトキンが必要なのだ。
何をしたい。
復讐。
誰に?
施設を表向き管理しているレイチェルに?
しかし、いまさら復讐なのか?
助け出した女がレイチェルだとしたら、簡単に殺せたはず。
殺すことが復讐ではないのか……。
復讐という考え方は、無理がある……。
単純に考えると、実験の再開。
そのためには、まず改修。
機器を整備し直し、動かすことのできる技術者が必要なのだろうか。
それとも、様々な雑務もこなせるメンテナンス要員が必要なのだろうか。
それとも、再稼動のための準備一切ができるプロデューサーなのだろうか。
あるいは、実験に協力してくれる同僚や助手が必要なのだろうか。
現実問題として、わずかふたりであの巨大施設を運営していくことはできないはず……。
稼働していた当時、研究者以外の技術者だけで一万人以上、メンテナンスには様々な企業も参集し、計算上は延べ一億五千万人以上が関わった、と資料には記されてあった。
その中から、ホトキンという人物を探し出す。
浜辺の砂に埋もれた一粒のビーズ玉を探し出すようなもの。
しかも、数百年前の記録から。
視点を変えてみる。
オーエンと接点のあった人物から探し出すアプローチ。
生まれた場所、通った学校から始まって、大学を出て研究所に入り、様々なプロジェクトに関わり……。
その中でオーエンと面識ができた人物……。
これも難しい。
膨大な文献を読み、まずオーエンの本当の意味での経歴を調べ上げることから始めなくてはならない。
しかも、数百年も前の。
仮に、ホトキンという人物を特定できたとしても、彼が生きているのかどうか。
生きているとすれば、どこで、どんな名で暮らしているのか。
正気でいるのか。
神がかり的にホトキンの居場所も現在名も分かったとして、もしニューキーツ以外の街に住んでいたら、ここでも難関が待ち受けている。
ハクシュウ達は、街の移動ができない。
軍に追われている立場では、運航している飛空挺にも乗れない。
ならば、目の玉姿のイコマがということになるが……。
チューブ、つまりエーエージーエスの中のアヤの捜索は難航していた。
すでに最初の女が見つかった位置から、三百メートルほど奥に進んでいるが、まだアヤはいない。
イコマは、スゥとパキトポークに、この施設の栄光の歴史を話した。
「そんな大層なものが、今はただ、監獄として使われているのか」
「人間って生き物は、数年先は見通せても、百年二百年先は見通せないものなのね」
というのが、ふたりの感想。
実際は感想を言い合っている状況ではない。
何かを話していなければ、心が押しつぶされてしまう。
確認した亡骸はすでに、五十体を超えている。
「きっと見つかるよ」
スゥが何度も声をかけてくれた。