146 探す場所は間違っていなかった
「今、出発した。場所を教えてくれ」
スゥは考えているようだった。
「どうした? 分かりにくいのか?」
「どう伝えればいいのか……」
「座標でもなんでもいい」
「座標だけでは、洞窟の入り口は見つからないわ。それに覚えてない。そうね、まず、あの窪地まで飛んで。そこから口頭で誘導する」
「分かった」
「何時間後に着く?」
「飛行スピードはマックスで時速三十キロしかない。半日はかかるだろう」
パキトポークが溜息をついた。
スゥが提案した。
「もっと速いフライングアイがある。ジャンク品だけど」
「どこで借りれる?」
イコマの思考体は、スゥが教えてくれた店に向かい、そこで乗り換えた。
びっくりするほどの値段を吹っかけられたが、そんなことは言ってられない。
百キロ近いスピードが出る。
それでも、窪地に着くまで、三、四時間ほどかかるだろう。
後三十分で、アヤの所へ行き着く。
ん、いや、そうではない、と気づいた。
あの声が言ったとおりの位置に、女が倒れていた。
それがアヤでなかったとしたら、アヤはどこにいるのだ。
今回、あの声は何も教えてくれない。
何度、声を掛けようとも、ずっと無言のままだ。
もしアヤが見つからなければ、ふたりを無駄死にさせることになるかもしれない。
それでいいのか。
パキトポークとスゥも、もういいから引き返そうと言ったところで、一蹴するだろう。
もう少しで現場に着くのだ。
どうか無事でいてくれと、アヤに、そしてパキトポークとスゥに向かって祈るしかない。
ハワードが訪ねてきた。
「まだ、私は生きています。新しい情報があります」
挨拶抜きでハワードは本題に入った。
私は生きていると断る無神経さに腹が立ったが、そんなことをやり合っているときではない。
「聞きましょう」
ハワードが得た情報は、一見して無関係な情報のように思えた。
エネルギー省の知人が言うには、ある施設で、一時的に膨大なエネルギーが使われたというのだった。
「その施設というのが、大昔の科学の産物で、ある実験施設だそうです。そこは表向きはもう閉鎖されているのですが、どういうわけか時々、エネルギーが消費されているようなのです。そして昨日、これまでにない大きなエネルギーが使われたというのです」
イコマは、ハワードの関心がどこに向いているのか、理解できなかった。
「そのことと、どんな関係があるんです?」
と、かなりつっけんどんな言い方になった。
「はい。その施設こそが、彼女が閉じ込められている施設ではないかと、私は思うのです」
イコマは、一瞬でその意味を悟った。
昨日、大量に使われたエネルギーとは、今、パキトポークが話してくれたときのことではないか。
百五十の兵が、一瞬にして真っ二つになったそのとき。
チューブに出現した軍について、ハワードの情報はなかった。
ただ、ハワードの想像が正しいとすれば、アヤを探す場所は間違っていなかったということになる。
後、三十分、いや、もう二十五分後。
死体が転がっている一帯のどこかに、アヤがいる……。
「大切なことを言い忘れていた」
パキトポークが声を掛けてきた。
「あの男が要求した条件を説明する。エーエージーエスで待っているオーエンに、弟子のホトキンを連れてくること」
「ふむ」
「エーエージーエスとはなんなのか。オーエンとは誰なのか、ホトキンとは誰なのか。どこに行けば会えるのか。これを調べてくれないか」
「それが叶わなければ、ここから出られない。そういうことだな」
「きっとそうだろう」
「わかった。できる限りのことをする」
「ありがとう」
「礼を言うのはこちらだ。本当に申し訳ない」
「いや、それはいい。で、もうひとつ、頼みがある」
「言ってくれ」
「俺の予想では、ハクシュウは自らホトキンを探しに行くだろう。あいつの性格からすれば」
コリネルスやスジーウォンではなく、ましてンドペキでもなく、ハクシュウ自身が街に戻ろうとするはずだという。
「うまくいけば、あんたが洞窟とやらに向かう際に、ハクシュウと出会えるかもしれない。そのことを念頭においてフライトして欲しい」
「わかった」