145 フライングアイを飛ばせ
イコマが目覚めたとき、フライングアイの思考体はバックパックに入れられていた。
真っ暗だ。
思考が強制中断されたのは、スゥの肩に乗って、チューブを突き進んでいたとき。
あれから、七時間経過しているはず。
ここはどこだ。
すぐに返事があった。
「スゥか。ここから出してくれ」
「出てきてもいいけど、景色は変わらないよ」
「今どこだ」
「チューブの中」
まだアヤは見つからないのか……。
「実はさ」
救出はできた。
しかしそれは、あなたの娘さんではないようだという。
「あの声が言ったとおりの地点に女の人が倒れてたから、てっきり……。もし違っていたとしても、その人を助けなければいけなかったし……」
「もちろんだ」
そう言いながらも、イコマは歯軋りする思いだった。
「レイチェルじゃないかって、ンドペキが言い出して……」
「ぐぅ……」
力が抜けていく。
もし、自分が立っていたら、まともに立っていられないだろう。
「誰も分からなかったから」
それで、スゥとパキトポークが、再びチューブに入ったのだと言う。
「今度もあの声だけ男は入れてくれた。無言だったけどね」
「他の隊員は?」
「それがさ、大変なことになって」
パキトポークの通信が割り込んできた。
「俺から説明しよう」
「うーむ。それであんた方ふたりは、またここに飛び込んでくれたというのか」
「そういうことになった」
「すまない。迷惑をかけて」
「いいってことよ。どうせ俺は兵士。人助けができるなんて、めったにあることじゃない」
パキトポークが快活に笑う。
「それに、ここの景色も見慣れたもんさ」
「今、どのあたりだ?」
イコマは気を取り直して聞いた。
「予定では、後三十分くらいで着くだろう」
後、三十分。そこでアヤと会える!
喜びが押し寄せてきたが、戒めなければ。
それが喜びとなるか、悲しみとなるのか、まだ分からない。
「ところで、頼みがある」
パキトポークの声。
「なんでも言ってくれ」
「あんたは、いくつ思考体を持っている?」
「本体と、別働の思考体がふたつ」
「その本体と思考体はひとつの思考を、つまり、同期しているんだろ」
「そう」
「今、ここで話していることは、本体と話してるのと同じことだよな」
「そのとおり。現に今、本体はバードの行方について、ある人と話している」
パキトポークが、ふっと息を吐き出した。
「俺達には外部との連絡手段がない」
「なるほど」
「すまないが、もう一体、フライングアイを放ってくれないか」
そうすれば、イコマの思考を通じて、外部との接点ができるというわけだ。
「お安い御用だ、と言いたいところだが」
街から施設の入り口まで、かなりの距離がある。
フライトにはかなりの時間を要する。
「それでもいい」
「分かった。とにかく、ハクシュウ達が今どこにいるか、探すことから始める」
今度はスゥが割って入った。
「それなら、分かってる」
「ンドペキが案内するっていう洞窟か?」
パキトポークとスゥが話している。
「問題がなければ、絶対にそこにいるはず。安全だから」
イコマは、すぐにひとつの思考体をフライングアイとして放ち、街を飛んだ。