143 チョットマを借りる
ンドペキは雷に打たれたような気がした。
そうだ、俺はこの仕事に最も不向きな男。
成功の確率は低い。
そのことに気づいて、ンドペキは愕然とした。
俺はなんと自分勝手なことを!
「いいか、おまえはこの洞窟を、皆のために守り抜け!」
「わかった。勝手を言って、かえすがえす、すまなかった」
ハクシュウは、あれほど怒っても、元はといえばンドペキの勝手な行動がこの事態のきっかけになったとは言わなかった。
好意が身に染みた。
「すまなかった」
ンドペキの口からまた同じ言葉が出た。
「それに、あのスゥという女を御せるのも、おまえだけだろうが」
「……」
それは違う、と言いたかったが、何も言えなかった。
「洞窟の防衛に、俺の隊員と、おまえの隊員を使え」
「了解した……」
「ただし、チョットマを借りる。この作戦は俺と、俺の隊のプリブ、チョットマの三人で行う」
「チョットマを……」
驚いた。
なぜ。
本人も驚いたようだ。
口にこそ出さないものの、喜び半分、困惑半分の顔をしている。
「チョットマを取り上げられるのは嫌か?」
「そうじゃない。なぜ、と思っただけだ」
「理由は言えない」
「そうか……」
チョットマが声をあげた。
「ありがとうございます! でも、私がどうお役に立てるのか分かりません。攻撃力はないし、頭も弱いです。足手まといになってはいけないので、私を選んでくださった理由を教えてください!」
ハクシュウが苦笑した。
「頭は弱くないさ。それは君らしさって言うんだよ。仕方ない。理由を言おう。実はたいした理由はない。怒るなよ」
「はい」
「我々の隊員の中で、君が最も顔が広くないと思うからだ」
チョットマの怪訝な顔がますます歪み、困惑の皺を深くした。
「つまり、街の人に顔を知られていない。他の者は再生を繰り返し、以前のことを忘れていても、相手は覚えているかもしれない」
「それなら、私も同じじゃないんですか?」
「ちょっと言いにくいんだけど、君は前世がないんじゃないかな。つまり、再生されたことがないんじゃないかな?」
チョットマが驚いてぴょんと立ち上がった。
「えっ、そんな! なぜ?」
「話が長くなる。せっかくの食事の時間が短くなる。後で、ンドペキに聞け」
「……そうします」
ハクシュウが立ち上がった。
「作戦本部は、この洞窟に置く。万一のときは、ンドペキの指示に従え」
万一のとき、という言葉の裏には、自分に何かあれば、次の隊長はンドペキであると宣言したのだ。
隊の決定権の順位は、ハクシュウ、ンドペキ、スジーウォン、パキトポーク、コリネルスということになっている。
優劣あるいは上下のニュアンスのある序列ではない。
軍としての行動は合議だけでは決められない。
あらかじめ決めておいた決定権の順位がなければ、いざというとき、そして緊急時に動きが取れなくなる。
そういうものだ。
普段の作戦、あるいは生活の中でそれを意識することはなかったが、今回は、そのことを思い出しておけ、とハクシュウは言っているのだ。
ンドペキはそう受け取った。
この非常にシビアな状況下で、全軍の隊長を任されることもありうるとは考えてもみなかった。
頭を切り替えねば、と思った。