140 狼男たち
「ぶら下がって……」
次の報に、殺気は驚きに変わっていった。
「手を振っています!」
「どういうことだ!」
「大丈夫です! ふたりとも無事です! 今、地面に降り立ちました!」
「ただいま戻りました!」
と、チョットマとスミソが大広間に入ってきた。
盛大な拍手が沸いた。
「あああっ!」
ふたりは立ちすくんでいる。
大広間の様子に度肝を抜かれたのだ。
「みっ、みんな……」
「ハハ! 今から作戦会議だ。俺の顔に驚いたか。その前に、報告しろ」
ハクシュウに促され、チョットマが報告する。
「パリサイドに助けられました。敵の軍を巻き、東方へ誘導しました。位置は、ここから東南東二百五十キロ付近」
「よくやった」と、ンドペキはねぎらった。
「敵の様子は?」
「ンドペキの指示どおり、パンパンやっては逃げるの繰り返しだったので、相手の姿はまともに見ていません」
「ふむ」
早速、チョットマがヘッダーを取ろうとしている。
「で、パリサイドは味方してくれた。そういうことだな?」
「はい。我々ふたりとはまた違う方角から、敵の軍を挑発して、ひとまとめにしてあっちこっちに動かしてくれました。助かりました」
「で、彼らに掴まって空を飛んだ感想は?」
「えっと、ハネムーンの気分? でした! 天にも昇るというのはこういう気分だなって!」
大広間がどっと沸いた。
ンドペキもうれしかった。
任務を果敢に果たしたことも、無事に帰ってきてくれたことも、そして気負いなく報告してくれることも。
「よくやった」
またそう言いながら、自然と笑みがこぼれた。
チョットマがヘッダーを取った。
見守る隊員たち。
長く艶やかな緑の髪が、チョットマの背中にばさりと流れた。
沈黙がどよめきに変わった。
ンドペキとチョットマの目が合った。
チョットマは、微笑むと、
「はあぁ、息苦しかった」と、一気にマスクを外した。
「うふっ。ンドペキの瞳に私が写ってる!」
こんなにきれいなやつだったかな。
ンドペキは自分の記憶力がないことを改めて思った。
くりくりした緑の瞳にすらっとした鼻筋。
美白の肌。
ふっくらした頬に愛らしい口元。
「変わってるな、おまえの声」という遠慮のないスミソの声が飛んだ。
「これが恥ずかしいんだよね。でも、あんたの声も変わってるね。もっと甲高いかなって思ってたけど、案外渋いんだ。というより、がらがら声!」
と、言い合っている。
スミソもすでにマスクを取っている。
「思ったより若作り!」
「若いんだよ!」
スミソも笑った。
そしてチョットマが隊員達を見渡した。
「へえ! 面白いね!」
隊員達もマスクを外し始めている。
やがて、笑い声が大広間に満ちた。
「うわっ、うわっ、ジルって、やっぱりすごい美人だったんだ!」
「やっぱりってどういうこと?」
「おおっ、おまえ、想像と全く違ってたよ! そんなきれいな顔してたんだ!」
「だから男だって!」
「顔、ちゃんと見せて」
「嫌なんだなあ」
「あら、素敵じゃない。んーー、ボーイッシュ」
「もう五十なんだけどね」
「いやあ、いろんなやつがいるなあ!」
ハクシュウが上機嫌で声を張り上げた。
「おおっ、ギョロ目もいるし、口裂けもいるな。うおっ! おまえ、最強じゃないか! 狼顔!」
こんな気分は初めてだった。
いつも一緒にいながら、まるで同窓会のように互いを確かめ合って、からかいあっている。
はじけるように笑っている者がいるかと思えば、巨人の声のように太く大きな声をゆっくり出す者もいた。
見渡せば、誰一人もうマスクをつけている者はいなかった。