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135 暁の空に光る

 ンドペキは走った。

 すぐ横にチョットマが付き添っていた。


「すまなかったな」

 チョットマは応えなかった。

 その代わり、なんの真似か、右手を目の下にやって、横に動かす仕草をした。




 すぐにンドペキは先頭に立ち、部隊を誘導していった。

 ばらばらに走っていた隊員も、徐々に集団に戻ってきた。


「コリネルス! しんがりを」

「了解だ!」

「ンドペキ! 距離は!」


 ハクシュウの声が追いかけてくる。


「一時間もかからない。視認されるのは面倒。森の中を迂回する。それでも、七十分少々で着く」

「よし! 各部隊、点呼しろ!」


 全員が揃っている旨の連絡が、次々と入ってきた。

「よし、できるだけ密集しろ! 敵に姿を見られるな!」




 GPSと連動しているスコープを切っているため、敵がどの位置にいるのか分からない。

 こちらの動きを察知したのかどうかも分からない。


 先ほどまでいた宿営地に向かってくれればしめたものだが、もし進路を西に変えていれば面倒だ。


 洞窟に着くまでに追いつかれることはないだろう。

 しかし、洞窟の入り口は狭い。

 全員が飛び込むには時間がかかる。

 そこで襲われれば、お陀仏だ。

 襲われずとも、洞窟の入り口を発見されると、袋の鼠。

 かなりまずい状況になる。




 ンドペキは必死で考えた。

 なにか、いい手はないか。


「コリネルス! 追っ手はどうだ!」

「確認できない!」

「どっちに進んでいる!」

「分からない!」



 チョットマが叫んだ。

「私が囮に!」

「おい!」

 振り返ると、すでにチョットマは背を向けている。

「待て!」

「大丈夫!」



 その瞬間、チョットマの姿は消えた。


「なんてことを!」


 ハクシュウが叫んでいた。

「チョットマ! 無理するな!」

「大丈夫です!」


 ンドペキは全速力で走りながら、叫んだ。

「逃げ延びろ! 探しに行くからな!」




 もう返事はなかった。




 やがて、かなり離れた位置から発砲音が聞こえてきた。

「あいつはあんな弾にゃ、あたりはしない」

 ハクシュウが声を掛けてきた。

 ンドペキは黙って走り続けた。


 あいつ!

 なんてことを!


 心に、じんとくるものがあったが、ンドペキはただ祈りながら、走り続けた。


 クソ!

 チョットマ!

 生きていてくれ!




 発砲音はどんどん遠ざかり、チョットマの陽動作戦は上手くいっているようだった。

 しかし、いずれ追い込まれる。

 敵の数は多い。


 隊を分けて囲い込まれれば、逃げ場を失う。

 そうなる前に、戦線から離脱し、無事に逃げ延びろ!




「チョットマを援護します!」


 クッ!



 ンドペキの隊員がもうひとり、隊を離れていった。

 スミソ。

 こちらも俊敏さが身上の男。



「無理はするな!」

 そう言うしかなかった。



 自分が行きたい。

 しかし、それはできない。

 隊を安全なところに誘導できるのは自分だけ。



「頼むぞ。無事に帰ってこいよ」

 ハクシュウが代わりに声を掛けてくれた。

 穏やかな声で。


「ちゃんと戻りますよ」

 スミソも穏やかな声を残して、森に消えた。





 陽動する場合、敵に近づきすぎずに発砲を繰り返し、引き付けては逃げるの繰り返し。

 通常の作戦でも、普通に使う手だ。

 攻撃力が弱い代わりに俊敏なあの二人には、慣れた戦術。


 それでも不安だった。


 敵はマシンではない。

 人間だ。

 そうたやすく引っかかるものでもない。

 しかも、二百という大軍。

 相手にしたことはないのだ。




 ンドペキは、ふたりに向かって、メッセージを送った。

「森から出るな! 誘い込め! 相手は見えなくなるが、こちらの的を絞らせるな。引きつける必要はない。発砲だけして逃げろ!」

「了解!」「了解!」

 チョットマとスミソから同時に返事が返ってきた。


「ふたりで必ず連絡を取り合え! 挟み込まれるな! 必ず迎えにいく! 絶対に大丈夫だというところまで、止まらず走り続けろ!」



 ンドペキは後ろを振り返り振り返りしながら、走った。


 曙の空が、時として様々な色に光る。

 チョットマらが発砲したものは少なく、ほとんどが相手軍の発砲によるものだ。


 止むことなく続く砲撃は、かなり広範囲にわたっている。

 森が轟音をたてて、焼き払われている。

 数キロ四方が一瞬にして火の海になっているだろう。

 あの只中に、チョットマとスミソがいる。


「逃げて逃げて、逃げまくれ!」


 もうメッセージは返ってこなかった。

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