134 キャンプは捨てろ!
東の空が白み始めていた。
待っていた隊員達の歓声を受けながら、ンドペキは担っていた女を、救護班が建てたテントに運び込んだ。
簡易なベッドが設えられてある。
医務に精通した隊員が取り囲んだ。
地上部隊は無事だった。
しかし、心は晴れない。
バードを助けることができなかった。
この女はレイチェル。
今では、確信に近い思いがしていた。
なぜそう思うのか。
スゥが話してくれた言葉が心に残っている。
レイチェルに対抗する派閥の存在。
俺を囮にして、レイチェルの行動を制約する、あるいは何らかの行動を促す動きがあるという話。
俺を拘束できなかったが、その一派はまんまとレイチェルを捕らえ、あそこに放り込んだのだ。
そうに違いない。
スゥはといえば、話しかけてもまともに返事もしない。
いつもの元気はチューブの暗闇に置き忘れてきたかのように、悄然と座り込んでいる。
フライングアイはまだ起きない。
女が誰なのか、不明のまま治療が続けられた。
急報が入った。
「南東より軍が接近!」
「数約二百! 人間の兵です!」
「政府軍か!」
「それ以外に、あんな大軍がいるんですか!」
チューブで見たあの軍。
あれは果たして、自分達を攻撃しようとしていたのか。
心に迷いが生じていた。
ハクシュウもスジーウォンも、パキトポークもその点は同じ。
今、接近しつつある軍はどうなのだろう。
ハクシュウが、仕方ない、と呟いた。
「俺が通信を繋ぐ。聞いてみるしか手はないだろう」
「待って!」
スゥが立ち上がった。
「私が聞いてみる。あんた達は居場所を知られないで!」
ハクシュウの位置が捕捉されれば、一網打尽になる可能性もある。
スゥの提案は妥当な判断かもしれない。
スゥは、見る間に数キロほど移動し、相手部隊に呼びかけた。
その声がみるみるうちに険しいものになっていく。
そして、とうとう、全速力で戻ってくると、
「ンドペキ! 皆を洞窟に!」と叫んだ。
「どういうことだ!」
「攻撃してくる!」
「クソッタレめ! 連中はどの辺りだ!」
「南東二十キロ! 十数分で到達の見込み!」
ンドペキはすぐ行動に移した。
「ハクシュウ! 全員避難しよう! ついて来てくれ!」
ハクシュウの決断は早い。
「どっちへ!」
「真西へ!」
「よし! 各々、自力で真西に向かえ! 戦闘は回避! ンドペキに従え!」
すでに隊員たちが走り出していた。
「キャンプは捨てろ! 自分の命を守れ!」
そう叫びながらハクシュウは背負子を装備し、スジーウォンに手伝わせて女を括り付けている。
「スゥ、何してる!」
スゥはチョットマからエネルギーパッドを受け取ったものの、動こうとしない。
「早くしろ!」
と叫んだが、スゥは何も言わないまま、逆の方に走り出していく。
「おい! どこへ行く!」
「バードを助けに!」
な!
すでに隊員達は西に向かって走り出している。
早く追いついて、先導しなくてはいけない。
しかし、スゥはまたあの施設へ戻るという!
「やめろ!」
スゥはもう応えない。
「クソ!」
追いかけている時間はない。
どうする!
「俺が行く!」
パキトポークがスゥを追いかけていた。
ハクシュウが怒鳴っている。
「ンドペキ! 早く案内しろ! パキトポーク! 頼んだぞ。生きて返れ!」
「任せておけ!」
「出てくる頃に迎えに来る!」
「おう!」
「忘れ物!」
スジーウォンがフライングアイをパキトポークに投げた。
「ナイスピッチング!」