131 痛い視線
「ほんとに、ンドペキは」
さっきから、このフレーズの繰り返し。
ンドペキのおかげで、部隊全員が窮地に陥っている……。
そんな状況の中で、シルバックたちの意見が退けられたのは当然だと思う。
街に帰れば何が起きるかわかったものではない。
政府の判断如何によっては、街に帰りつくことさえできないかもしれない。
いや、すでに政府軍がこちらに進軍しているかもしれないのだ。
いくら政府でも、このハクシュウ隊全員を一気に消滅させるのは、問題が大きくなりすぎるかもしれない。
むしろ、戦闘によって殺した方が政府としては御しやすいかもしれない。
再生されるかどうかは別にして。
チョットマはそんなことを考えながら、思わず身震いした。
視線を感じて目を上げた。
コリネルスに説得されて、シルバック達が引き上げていく。
視線は彼らから向けられていた。
そうよね。
チョットマは呟いた。
私が原因かも。
パパの願いを聞いたから、こういう事態に陥ったともいえる。
バードを救出するという作戦は、今回の行動のおまけのようなものだったはずが、現実は違う。
今は、その作戦に全軍が集中し、様々な謎と危険をそのままにして、ここで夜を明かそうとしているのだ。
ンドペキが自分が救出に向かうと言い出したことは、理解できる。
迷惑をかけた埋め合わせに、そして自分だけはこのまま街には帰れないという状況で、施設に飛び込んで行こうという気になったに違いない。
しかし、チョットマはこの点でも、意味がわからなかった。
スゥというあの女が、自分が行くと言い出したことだ。
武器も持たず、兵士でない者が、この得体の知れない施設に乗り込んでいくのは、まさに血迷ったとしか思えない。
無謀すぎる。
たとえ、パパやバードとなんらかの関係があるとしても、あるいはどんな借りがあるにしても。
あいつがあんなことを言い出して、状況が悪い方へと動き出したのだ。
ンドペキだけなら、ハクシュウたちが取り押さえてでも、止めることはできただろう。
そして、地上へ上がってきたはず。
あの女があんなことを言い出したおかげで、パパも取り乱し、瓦礫が散乱する階段のど真ん中で、もみ合いになったのだ。
そして、なぜか扉が開いた。
結局は、ハクシュウはじめ八人もの仲間が閉じ込められてしまったのだ。
パパの頼みを持ち込んだ自分にも責任があるのかもしれない。
チョットマはそう感じて、シルバック達の視線を受け止めた。
隊員の多くからそんな眼で見られているような気がして、いたたまれなくなってきた。
眠れなかった。
様々な思いが去来し、謎を反芻し、地下に閉じ込められたメンバーの無事を祈った。
パパには悪いが、もうバードという女性のことは、どうでもよくなっていた。
全員、無事に戻ってきてくれさえすれば。
しかし、せめてンドペキとハクシュウだけは、という思いが湧き出してきてしまう。
それを跳ね返そうにも、心に張り付いてしまい、離れなかった。