130 ちょっとした揉め事
地上部隊では、ちょっとした揉め事が起きていた。
パキトポーク隊の数人が、意見があるという。
シルバックという女性隊員が代表して、コリネルスに進言した。
数人だけでも街に戻って、装備や携行品を整えた方がいいのではと。
確かに、急いで出てきたせいで、それぞれの隊員が持つ装備にはばらつきがあった。
完全武装ではあるが、広いところで戦う武器を持っている者が大半で、森の中や地下の施設で戦うに適した接近戦用の武器を持っている者は多くない。
それに、発破や照明弾、センサー感知器、小型のバリヤーなど、施設内での戦闘に役に立ちそうなものはほとんどないに等しかった。
「朝まで待って、ハクシュウ達が戻らないようなら、考えよう」
コリネルスにそう言われても、シルバック達は引き下がらない。
「隊長以下、最も戦闘能力の高い人たちが入って戻って来れないなら、地上の私達は最善の準備をしなくてはいけないんじゃないでしょうか」
一理ある。
しかし、コリネルスは首を縦に振らない。
「ハクシュウ達は失いたくない。それに、街に戻ろうとする君達も失いたくはない」
チョットマは、コリネルスの言うことが正しいと思った。
自分達の置かれた状況は、必ずしも良好とはいえない。
街政府は、自分達の行動をどのように見ているだろうか。
ンドペキは、消滅させられる恐れがあると言った。
それを追ってきた自分達はンドペキの仲間であるし、見つけ出したンドペキを街に連れ戻そうとしないばかりか、さらに北方に移動し、政府の施設に突入していったのだ。
広域通信を切り、隠れるように行動し、街から遠く離れた森の中に宿営を建設したのだ。
異星人との会談のあった次の夜、という微妙なタイミングに。
政府にとって、危険な部隊と映っても何ら不思議ではない。
街に戻ろうとする君達も失いたくはないというコリネルスの言葉は、そのことを意味している。
シルバック達も、考えていないわけではないだろう。
しかし、まさか自分達が反逆者として捕らえられたり、死をもたらされることはないはず、とたかをくくっているのだ。
チョットマはンドペキの性格を考えた。
彼は私に何も伝えず、街を出た。
連絡を取り合う約束をしていたにもかかわらず。
普通では考えられないこと。
ニュアンスとしては、ンドペキのあの行動は「逃げた」ということになる。
何から?
消滅させられるから?
でも、なぜ?
サリを殺そうと思ったから?
思っただけで?
街より荒野の方が安全?
コリネルスは、ンドペキにほとんど何も聞こうとしなかった。
それはハクシュウの役割だと思ったからだろうし、追及口調になってはいけないという配慮もあったろう。
ンドペキの方も、詳しく話そうとはせず、ただうなだれて、すまないとばかり繰り返していた。
チョットマは、自分がンドペキに話すとしても、コリネルスと同じような質問しかできなかっただろうと思う。
真相は濃い霧の中。
あいまいな輪郭さえも見せてはいない。
そう感じた。