128 条件には一致するが……
ハクシュウがうつ伏せに倒れている者に、手を掛けた。
「あっ」
髪が長い。
女だ。
「暖かい!」
隊員達は色めきたった。
「よし、そっとだ」
仰向けに寝かせた。
「生きている。スジーウォン、怪我がないかどうか、調べろ」
「はい」
「他の者は、警戒を怠るな!」
スゥが倒れている女にすがりつくようにして、顔を見つめている。
「これがパパさんの娘なのか?」
パキトポークが不安げな声を出した。
「知らん」
「条件には一致するが……」
「違っていたらどうする」
と、暗闇に光を投げかけながら、ささやく。
「どうもしないさ。この暗闇地獄から、この人を救い出したってことさ」
「もっと先へ行ってみるのか?」
「うーむ」
「行くなら、この人を運び出す隊と、先へ行く隊を分けなくてはいけない。この人をここに置き去りはできまい」
「スゥ、どうなんだ?」
スゥはグローブを外し、女の顔を撫でているが、何も言わない。
女は衰弱し、意識もない。
しかも、血だらけだ。
「怪我の具合は?」
「骨が折れたりはしてないみたい。でも、腕や脚に怪我してる」
「うむ」
「血が乾ききっていない。顎の辺りや胸からお腹にかけて血だらけ」
「治療できそうか。ここで」
「難しいと思う」
「身元を示すものは?」
「ないみたい」
バードなのか。
ンドペキは、どこかで見たことのある顔だと思ったが、思い出せなかった。
もし同じ街に住んでいるのなら、すれ違ったりしたことはあるかもしれない。
女は目を閉じている。
目が開いていれば、もう少し印象がハッキリするのだろうが。
しかも、女の顔の目から下は血がねっとりとこびりついている。
とても普段の素顔を思い浮かべることができない有様だった。
「運ぶぞ」
隊員がバックパックから簡易な背負子を取り出した。
負傷した兵士を運ぶものである。
「そうだな。担架よりその方がいいな」
担架はふたりで担う。
進行速度を一定に揃えるため、遅くならざるを得ない。
その点、背負子なら自由が利く。背負われる者には負担だろうが。
「俺が背負う」
隊員たちは相当疲労しているはずだ。
俺の出番だ。
「よし」
ンドペキは背負子を付けてもらって、女を座らせ、括りつけた。
簡易酸素ボンベを装着し、チューブを鼻に差し込んだ。
「今できる処置は、これしかないな」
「大丈夫だからね。ちゃんと外に連れ出してあげるから」
スゥが声を掛けてやる。
その声が震えていた。
「この先には行かないんだな」
パキトポークがハクシュウに念を押す。
「無理だろう。隊を分けることはできないし、エネルギーパットも残り少ない。それにこの人はかなり弱っている」
「そう言うと思ったよ」
一刻も早くここから出たい。そんな気持ちが滲んでいた。
ンドペキは、投光器をフルパワーにして、前方を照らした。
点々と、横たわるものが見えるが、動くものはない。
センサーも熱を感知しない。
「戻ろう」
チューブを戻り始めてすぐ、あの声があった。
『敵軍がこの中に入ったぞ』
「なんだと!」
『約百五十名、接近している』
くっ!
ハクシュウが、隊を停止させた。
「前方か!」
『あと三分で遭遇するだろう』
「照明を付けろ! 戦闘準備! 隊形D!」