127 いざというときに頼りにならないおっさん
亡骸。
それもかなり以前に死んだもの。
肉は腐敗して崩れ落ちている。
薄い緑色の衣類を、被せられたかのように纏っている。
男か女かも分からない。
屍。
誰もが愕然とした。
「これが、バードなのか」
「たった、一日でこんなになるのか……」
ンドペキは、この奇妙な施設なら、どんなことが起きても不思議ではない気がした。
このチューブはまさかタイムマシン。
ここへ走ってくる間に、何十年もの月日が経っていても、信じられるような気がした。
「ん! ちょっと待て」
ハクシュウが我に返ったように言った。
「ここまでの距離は?」
「そうだな、三百二十キロ三百八十八メートルというところだな。数メートルやそこらの誤差はあるぞ」
「うむ、もう少し先か」
「この人ではない、ということね」
スゥがほっとしたように息を吐き出した。
「そう思いたいね」
再び慎重に進んでいく。
何本もの光が、チューブの底面をくまなく照らし出す。
「見落とすなよ」
そこから先には、干からびた死体が幾体も転がっていた。
「なんだ、ここは」
「ここに放り込まれた連中か?」
小さな声でささやきあっても、声はこだまする。
「ここまで死体はなかった。ということは、これらはこの先から逃げてきて、ここで息絶えたということだよな」
「このあたりが、元気なやつの到達点か……」
だとすれば、この先、どんな光景が待っているのか。
死体には比較的新しいものもあった。
全員が衣服を身に着けている。
兵士の装備をしている者はない。
比較的新しい死体には、触れてみて、顔を見て、バードではないかどうかを確かめた。
「参ったな。バードの顔を知らない」
ハクシュウが唸った。
スゥが、イコマに聞いておいてくれたことを伝えてくれる。
「年齢は二十代。女性。髪は長く、小顔でまぶたは一重。身長百六十センチ程度」
「なるほど」
「細めの体型」
「服装は?」
「分からないって」
「瞳の色は?」
「あっ、聞いておけば良かった」
「うーん。親父さん、次に目覚めるのは、いつだ?」
「待てないわ。睡眠時間は七時間」
「睡眠ねえ」
ンドペキは、いざというときに頼りにならないおっさんだな、と思ったが、口にはしなかった。
眠りに落ち、最も悔しい思いをしているのは、この人なのだ。
それにしても、これほどたくさんの亡骸が転がっているとは思ってもみなかった。
救出以前に、見つけ出すことさえ難しいのではないかと思い始めていた。
「呼んでみますか?」
隊員が言ったが、ハクシュウは首を横に振る。
「ここがどういう施設か知らないが、何らかの監禁施設だ。施設側の人間に見つかるのはまずい。ここで戦うのは圧倒的に不利だ」
同感である。
局所的には戦えても、ここから抜け出すのはまさに絶望的。
全員が破滅するのは眼に見えている。
「まだ、間に合う。あの声はそう言ったよな」
「当てにはならんさ。それに、俺たちが間に合わなかったってこともあるだろうさ」
「いやなことを言わないで!」
数えて、二十一体目。
「俺の計算では、ここが、三百二十キロ五百六十六メートルということになる」
パキトポークの声に、俄然、緊張が高まる。