126 三百二十キロ!
「三百十五キロ通過!」
「減速! 武器を構えろ! ンドペキ、照明はまだいけるか!」
ンドペキは、光線をフルパワーに切り替えた。
暗いチューブが続いている。
「さすがに見飽きたな」
ハクシュウが軽口を叩く。
いよいよだ。
「三百二十キロ!」
この先、五百六十六メートルのところに、何があるというのだろう。
女が倒れているだけなのか。
それとも、何かに囚われているのだろうか。
あるいは、近づけないような仕掛けでもあるのか。
何者かが、行く手を阻んでいるのか。
男の声はあれきり聞こえない。
「停止!」
光は行く手を照らし出しているが、空間に変化はない。
かなり疲れていた。
このチューブに入ってから、すでに三時間ほど経過している。
ンドペキは、隊員たちのことを思った。
彼らは、昨夜からシリー川で監視任務に就き、今日の昼ごろ街に戻り、その脚でここまでやってきた。
そしてこのチューブに入り、今から起きることに対処しようとしているのだ。
「息を整えよう」
ハクシュウが小休止を命じた。
「チョットマのパパは?」
「もうとっくにお休みになっています」
スゥの声にも力がない。
疲れているのだ。
彼女も、昨夜から走りづめのはず。
「エネルギーパットの予備はあるか?」
ひとりの隊員がおすおず手を上げた。
「すみません。ちょっとやばいかも、です」
「よし、これを」
ハクシュウが命じた。
「全員、装備を点検しろ」
ンドペキは自分のメインの武器である中射程中性子弾と、ネオ粒子サーベル、レーザーサーベルのエネルギーを再充填しながら、前方の暗闇を睨み続けた。
「ゆっくり前進。全員、照明用意」
「閃光弾を持っていますが」
「必要になれば使おう。だが、すぐそこに人が倒れているかもしれない。今使うのは危険だ」
もし、そこに敵がいるのなら、とうに気づかれているはず。
これだけの所帯で、明々とライトを灯しての行進である。
しかし、チューブは依然、自分達の声がこだまするばかり。
ハクシュウは、隊員の一人に前方の異変に注意しておけと命じ、他の者は全員がチューブの底面に注意を向けた。
じりじりと進んだ。
「あっ」
スジーウォンが小さな声をあげた。
チューブに入って初めて、金属の壁以外のものを発見した。
「急ぐな」
ハクシュウが小さな声で命じた。
もしあの物体が囚われ人なら、どんな仕掛けがあるか知れたものではない。
それぞれが自分のスコープのモードをめまぐるしく変えながら、異常の有無を調べながら近付いていく。
チューブは静まり返ったまま。
何の変化の兆しもない。
ついにその物体に触れた。