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125 前方の床を照らせ!

『女を助けたくはないのか』


 慎重にしばらく進んだ時、また声がした。


『ハクシュウ! そんな悠長なことをしていたら、間に合うものも間に合わなくなるぞ』

「どこなんだ!」


『このまま、二十三キロ進め。四つ辻がある。見落とすな。そこを右に。その先だ。正確に言うと、三百二十一キロ五百六十六メートル付近だ』

「……」



 そんなに遠いのか。

 ンドペキは暗然とした気持ちになった。


「おい! なぜ俺の名を知っている!」

 ハクシュウの問いに、もう声は何も応えなかった。





「行くぞ!」

 弾かれたように、隊員たちはスピードを上げた。

「全速! 密集隊形!」

「了解!」

「パキトポーク! 距離をモニターしろ!」

「ラジャー!」

「ンドペキ! 俺と並べ! 前方の床を照らせ!」

「了解!」

「全員、武器を構えておけ!」

「了解!」

「明かりは大切に使え。消せる者は消せ!」

「了解!」




 どこまで行っても、単調な景観が続いていた。

 全く変化はない。

 ただ、巨大な円筒の中を走るのみ。




 ンドペキは集中して、前方百メートル辺りを見当に床を照らし続けているが、帰りの時間も考慮して照度はセーブしている。

 他の隊員は全員が明かりを消し、ンドペキの光だけが頼りだった。




 圧倒的な暗闇に、か細い光が一筋。

 それを頼りに全速で走っていくのは、かなり勇気がいった。

 それでもンドペキとハクシュウを先頭とする八名は、チューブの中を全速力で飛んだ。




 ンドペキは思った。

 ハクシュウは、こう言った。

 この救出にできるだけのことをするとフライングアイに約束したからだ。

 しかし実際は、俺を一人残して行けるか、が本音だろう。

 ハクシュウだけではなく、スジーウォンもパキトポークも他の隊員たちも。


 今ほど、仲間達の気遣いがうれしいと感じたことはなかった。

 それに応えるためには、身を賭しても救出を成功させる。

 そして無事に全員を地上に帰らせる。

 自分を犠牲にしてでもやり遂げる。

 強くそう思った。




 走りながら、違和感があった。


 一直線に走っているつもりが、いつの間にかハクシュウと近づきすぎている。

 普通なら、ふたりの間の距離がこれほどぶれることはない。

 自分かハクシュウのどちらかの走り方が異常なのだ。


 そうは思ったが、ハクシュウを見ることも振り返ることもできない。明かりは自分の頭に点いている。

 他の隊員たちの走行を確認することはできなかったが、その答はやがて分かった。

 スゥが呟いたのだ。


「わずかに左にカーブしているのね」


 男が何か言うかと思ったが、あれきり声はない。



「二十一キロ地点通過!」


「二十二キロ!」

「減速! スジーウォン! 右の壁を照らしながら進め!」

「了解!」

「走りにくいだろうが、頼むぞ」

「大丈夫。あんたの背中を見るのも飽きたから」

「いつもそうしてるじゃないか」

「こんなに近寄って走ったりはしないでしょ。あっ」

「止まれ!」


「壁が消えた!」




 そこは三叉路だった。

 先は、今までのようなチューブが続いている。

 ただ、幅は倍ほどあり、扁平だ。

 そして同じようなチューブがもう一本、左後方に伸びていた。



「確か四つ辻と言ったな。ここか?」

「しかし、距離はピッタリだぞ」

「よし、もう少し進んでみよう」



 かなり進んだ。

 先ほどの地点から、数キロ進んでいる。

 チューブの幅は一旦狭くなり、もとの幅になったかと思うと、再び広がっていく。



「止まれ!」

 ンドペキは光線を最大パワーに切り替えた。


「ん?」

 先にふたつのチューブが見えた。

「二股に分かれている」

「なるほど」

「そういうことか」

 数人から声が上がった。


「巨大なチューブがふたつ、ここで接しているのよ」

「だからここは、とても長い交差点の中。四つ辻」




「よし、ここからが本番。体力勝負になるぞ」

 ハクシュウが全員の肩を叩いていった。

「エネルギーは大丈夫か」

「腹は減ってないか」

「限界になる前に、言えよ」

 と、声を掛けていく。


「三百二十一キロ五百六十六メートル、一気に進む。パキトポーク、さっきの分岐から距離をモニターしてくれ」

「了解」

「体力を温存しよう。武器の水平携行は最前列のひとりだけに。適宜交代する。ここにマシンが出没するなら、それはそのとき」

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