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124 嵌めやがったな!

 少し落下したものの、無事に床に降り立った。


「くっ、来るなというに!」

 ハクシュウたちも続いてくる。


「なぜ、聞いてくれない! 俺の頼みを!」

「邪魔はしないさ」


 ハクシュウの声は、幾分穏やかになっていた。

「おまえを援護する」

 声がこだましていた。




 上部の入り口から漏れる光で、お互いの姿は見えたが、他に光はない。

 かなり暗い空間だった。

 床は傾いていて、立ちにくい。

 隊員たちは辺りを窺った。



「なぜだ」


 ンドペキは、情けなさに憤りと喜びが混じった気分だった。

 ハクシュウが追いかけてくることは、半ば予想していた。

 隊員を見捨てるような男ではない。

 しかし、これは自分に与えられた課題だ。使命だ。

 そう思おうとしていた。




「これは、俺のミッション」

「俺も、チョットマのパパに約束したからな。できるだけのことはするってな」


「しかし、こんなわけの分からないところに入り込んで、もし死んだらどうするつもりだ」

「監禁施設なんだから、わけが分からなくて当然だ」


「引き返せと頼んでも、もう無駄か?」

「俺たちは全員で、この先へ進む」


 ハクシュウが翻意することはないだろう。

 ンドペキも、すでに説得をあきらめていた。

 しかし、言わずにおれなかった。


「俺はみんなに迷惑をかけた。挽回させてくれ」

「誰がおまえに迷惑だなんて言った? 俺たちは兵士だ。常勝というわけではない。いつも誰かが誰かを助ける、助けられる。そういうことだ」

「しかし今回は、戦闘で助け合うというようなことじゃない。俺は逃げたんだ」

「逃げるも戦法って言うからな」




「すまない。じゃ、隊長、よろしく頼む」

 もはや、そう言うしかない。




 むっ!


 暗くなっていく。

 あっ、扉が閉まる!

 たちまち、真っ暗闇に包まれていた。





 男の声がした。

 先ほどの声だ。


『話がついたところで、扉はすべて閉じさせてもらった』

「くそ! 嵌めやがったな!」

『最後まで聞け。必要なときには、また開けてやる』


 すべてのものが視界から消えていた。

 スコープを通せば暗視はできるものだが、それはかすかでも光があってこそ。




『ここに照明はない。自分たちで何とかしろ』


 これほどの闇は、誰も経験したことがなかった。


「うっ、これは……一歩も前が……」

 ハクシュウの唸る声が聞こえた。

「投光器を!」


 誰も応えなかった。

 さっきの揉み合いで、忘れてきたのだ。





 一筋の強烈な光。

 空間を舐め回していく。


「そうか、ンドペキは夜の狩が趣味だったな」

 どんな状況下でも、隊員の心を和ませる気遣いを見せるのがハクシュウ。

 光は俺のヘッダーから発せられている。




「長い時間は持たない。せいぜい一時間。もっと照度を落とせば、五時間くらいは持つ」

 全員が何らかの照明器具を装備していたが、いずれも小さなパワーしかなく、光が届く範囲は限られている。

 それでも、この空間の概略はつかめた。



 横に転がした筒のような空間。

 完全な円筒形。

 天井と壁と床という区別はない。


 光沢のある金属でできたチューブ。

 継ぎ目もなく、留め金具の類も見当たらない。

 巨大な金属パイプ。



 入ってきた入り口は、もうどこにあるのかさえ分からなかった。

 スライドした扉は完全に壁と同化している。

 スイッチらしきものもない。

 平滑な壁面が緩やかに傾き、円筒の底へ、天井へと続いているだけだ。



 円筒の先は、どこまで続いているのか分からない。

 光はかなり遠くまで飛んでいるはずだが、照らし出しているものはない。

 長い長いチューブに入り込んで、天地も分からない。





 チューブの斜めになった床に立っていた。

 しかも暗闇。

 平衡感覚を失いそうで、眩暈がした。


「ここでは話しにくい。底に移動しよう」

 斜面を注意深く降りていった。

「直径五十メートルはありそうだな」



「あっ、おまえも」

 ンドペキは、スゥがいることに気づいた。


「言ったでしょ。私が行かなくちゃって」

「なぜだ」

「あれこれ言ってても仕方ないよ。もう扉は閉まっちゃったんだし」


 ハクシュウが言った。

「ンドペキ、も一度左右の奥を照らしてくれ」

「了解」


 どれだけ丁寧に照らしても、左右共に、なんの物体も認められなかった。

 あるのはただ暗闇だけ。




『右へ』

 男の声がした。

「よし!」


 慎重に進んでいった。

 どこかに倒れているかもしれない人影を探しながら。

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