123 止まるんだ! 命を粗末にするな!
そのときだった。
とてつもない大声が響いた。
『扉を開ける!』
その場にいた者すべてが、凍りついた。
誰が発した声なのか。
『入れ!』
再び声。
厳かだが、威圧的な響き。
男の声。
階段を揺るがし、天井から砕片がぱらぱらと落ちてきた。
「誰だ!」
ハクシュウが怒鳴った。
『女を助けたいのだろう。今なら間に合うぞ!』
その言葉を聞くやいなや、イコマは最速で階段を飛び降りていった。
「あっ」
後方でハクシュウたちが浮き足立っていたが、構ってはいられなかった。
フライングアイの体だ。
死ぬことはない。
フライングアイが破壊されることになったとしても、構わない。
もとより、自分の命など、もう惜しくはない。
声の主が誰であろうと、何らかの策謀であろうと、このチャンスを逃すわけにはいかない!
扉の向こうへ!
ンドペキが追いかけてくる。
「俺も行く!」
「来るな!」
イコマが叫ぶのと同時に、
「待て!」とハクシュウの厳しい声。
「あんたじゃ、救出できない!」
ンドペキの声がすぐ後ろから追いかけてくる。
「あんたが死ぬ必要はない!」
「そう決まったわけじゃない!」
声が言うように、扉はすべて全開されていた。
扉の前でイコマは止まった。
「お気持ちはうれしいが」
と言いかけたが、ンドペキがたちまち追い抜いて、風除室に飛び込んでいった。
「センサーが!」
イコマの声に、男の声が被さった。
『恐れることはない。どこにも繋がってやしない』
ンドペキを追って、イコマは突進した。
すでにンドペキは二箇所目の扉を抜けている。
いつ点いたのか、風除室には照明が灯されていた。
明るい廊下をンドペキが駆けていく。
「あっ」
イコマをハクシュウたちが追い抜いていった。
追い抜きざまに、スゥの手がフライングアイを掴んで、肩に乗せた。
「掴まっていて!」
「みんな、ちょっと待ってくれ! 危険かもしれないぞ! 止まるんだ!」
イコマの声はむなしく、耳をかすものはいない。
「止まるんだ! 命を粗末にするな! 止まれ!」
廊下の突き当たりに、三つ目の入り口が見えた。
ここも扉は開いている。
人がひとり通れるだけの小さな入り口。
その先は暗い。
ンドペキがようやく立ち止まった。
ハクシュウ達がたちまち追いついた。
「勝手な真似をするな!」
「すまない、ハクシュウ。引き返してくれ。ここから先は俺が行く。どうせ死ぬ身だ」
「行かせるものか!」
「頼む!」
「許さん!」
「最後の頼みだ! 消滅させられるならまだしも、こんなところに閉じ込められた人がいて、それを助けたい人がいる! 俺が最後にできる人助けだ。行かせてくれ!」
言うが早いか、ンドペキが暗い暗闇の中に飛び込んでいった。