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121 瓦礫の上で

「壊れている。傾いているし、隙間が」

 イコマの報告に、ハクシュウが降りてきた。


 扉を開閉するためだろうボタンが二個、壁についているが、それを押しても何の変化もない。


「暗証番号を打ち込むんだな」

 蓋のついたボックスが壁に埋め込まれている。

 しかしそのボックスは、施錠されていて開けることができなかった。

 かなり古い時代のもののようだ。


「どうせ認証はできない。ロックが外れるかどうか、一か八か、やってみるか」



 パキトポークが止めた。

「ここの天井も壁も、もろい。爆破は無理だ。それに扉の向こうにこの御仁の娘さんがいたらどうする」

 そして、「バードさん! イコマさんが助けに来ています!」と、呼びかけてくれる。

 イコマも声を合わせて呼んでみるが、この目ん玉姿。フライングアイはか細い音声しか発せない。





 声を返すものはいない。


「じゃ、力づくで押し開けるしかないか」

「ふむ」

 ハクシュウが扉の中央部を力任せに押した。

「動かないな。こっちがだめなら、こっちはどうだ」

 と、もう一枚の扉を押した。


「おっ」

 わずかに動いたようだった。

「よし」

 ふたり掛かりで押すと、スーッと扉が自分で動き始めた。

「しめた!」




 完全に右半分の扉が開いた。

 ところが、ほんの二十メートル程先に、また同じような扉がある。


「厳重だな」


 イコマは再びその風除室のような空間に入り、二つ目の扉を調べた。

 こちらもひとつ目の扉と同じように壊れていて、隙間が開いている。

 ハクシュウが入ってこようとした。

「だめだ!」

 イコマはあわてて止めた。

「センサーが!」

 数本の赤外線が、風除室を横断していた。



「センサーを切らないよう、誘導してください」

 イコマはハクシュウたちが、二つ目の扉に来るのを待った。


 その間に、恐ろしいことを思いついた。


 もし、この扉を開けることができても、同時に最初の扉が閉まるという仕様だったら。

 また、力づくで同じように開くとは限らない。

 少なくとも、一枚目は途中からは、機械仕掛けで開いたのだ。



「一旦、扉の外に出て!」

 一行が風除室の外に出ると、ひとりの隊員が言った。

「すみません! 俺、センサーを切ったかもしれません!」


 周囲の変化に注意を向けた。

 警報が鳴るわけでもなく、どこかの仕掛けが動き出した様子もない。


 かなり長い時間、様子を見て、ようやくハクシュウが聞いてきた。

「どうされたんです?」

 イコマは、さっき思ったことを話した。



 さすがにハクシュウも考え込んだようだ。

「戻りましょう。せめて明るくなってから、もう一度」

 実際は、すぐにでも扉を押し開けて中に入りたかったが、これ以上、ハクシュウたちを危険に晒すわけにはいかない。


 そのとき、コリネルスから連絡が入った。

「瓦礫の撤去、終了!」

「おっ、早いな」

「あいつがどうしても話したいことがあると言ってる。そちらに向かわせていいか?」


 ハクシュウが顔を向けた。

 イコマは、再び、戻りましょう、と言った。

「いや、俺たちも上に引き上げる」




 イコマは隊員の肩にとまって、階段を駆け上っていった。

 断腸の思いとは、こういうことを言うのだろう。

 あの扉の向こうにアヤが倒れているかもしれないのだ。

 助けを待って。



 しかしイコマはその思いを振り切ると、ハクシュウに言った。

「今日は本当にありがとうございました」


 ハクシュウは応えない。

 この男の心を支配している思いを推し量って、イコマはそれ以上は言わなかった。

 目的は達成できていない。礼を言われるのは早い。

 そう考えているに違いなかった。




 階段を半分ほど登ったところで、またコリネルスから通信が入った。

「下で話したいそうだ。傍受される恐れをできるだけ避けたいらしい」

「そうか。では、中ほどで待っていると言え」

「了解」



 しばらく待つと、ンドペキが降りてきた。

 女も一緒だった。



「隊長」

「どうした」

「すまなかった、俺は」

「しつこいぞ。詳しいことは、またいつか聞く。心配するな。だれもおまえを責めやしない」

「しかし、このままじゃ皆に合わせる顔がない。その女性の救助は、俺にやらせてくれ」

「だめだ」

「なぜだ」

「なぜ、おまえが消されるのか、その理由を突き止めていない。俺たちはそれをやめさせなくてはならない。その前におまえが死んでしまったら、俺たちにやることがなくなってしまう」

 ハクシュウが冗談めかして言ったが、ンドペキは引き下がろうとしない。


「明日だ。朝から作戦を再開する」

 ハクシュウが宣言したが、ンドペキが食い下がった。


「急を要するのではなかったのか! 俺は今から降りていきたい」

「許可しない」

 パキトポークがンドペキの背中をどやしつけた。

「隊長の言うとおりにしろ! 気持ちは分からんでもないが、妙な使命感に燃えるな!」




 ンドペキはがくりと肩を落とすと、実は、と語り始めた。

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