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119 パパ。起きてる?

 あくまで穏やかなハクシュウの語り口。


 抹消されるかもしれない。その瀬戸際に立たされている。そう言ったな。

 もしそれが本当なら、隊長としてどうしろと命令することはできない。

 おまえの命に関わることだから。



「命を賭してまで遂行しなくてはならない任務なんて、今の時代にはないさ」

「しかし、ハクシュウ」


 昔の戦争のように、殺し殺されというような状況なら、そういう重い任務もあるだろう。

 しかし、今は命以上に大事なものは何もないんだよ。

 俺がいつも命令を出し、皆がそれを忠実に実行してくれるが、それは戦闘を最大限有効に行うため。損害を最小限に抑えるため。

 そして、皆が気持ちをひとつにして有意義に毎日を送るためだ。


「しかし迷惑をかけた上に、俺が……」

「俺がどうした?」

「恩も返さず、隊を抜けて……」

「あん? 誰が抜けていいといった」

「しかし……」




 ンドペキの声が弱々しい。


「ンドペキ……」


 チョットマは自分の考えを整理できないでいた。

 結論を出すのは自分ではないが、今、どうすることが最善なのだろう。

 何が、ンドペキが一番、安心できる答なのだろう。


 ンドペキは荒野に隠れ住み、自分たちはンドペキを置いて街に帰るのが最善?

 そして、その後はどうなっていくのだろう。




 ハクシュウが、「俺たちはまだ街には帰らない」と言った。

 ンドペキがハクシュウの次の言葉を待っている。

 俺のために荒野にとどまるのはやめろ、などと言い出さないように、とチョットマは祈った。




「俺たちにはやり残したことがある」


 そうだ、忘れていた!

 それだ!

 バードの救出!

 それをやりながら、ンドペキや部隊の今後の取るべき行動を探ればいい!


 ハクシュウって、すごい!

 だから、十日分もの携行品の準備が必要だったんだ!



 まさしく、ハクシュウが言った。


「ある女性が政府に捕らえられている。そんな情報がある」

 チョットマは、バックパックからフライングアイを取り出した。


「そして彼女を救出して欲しいという依頼があった。そこの御仁からだ。そこで、おまえに聞きたい。街の北部にその監禁施設はあるらしい。場所を知らないか?」



 ンドペキには事情が飲み込めないようで、また女を見た。


 なんだ! ンドペキは!

 だらしないぞ!



「監禁施設……」

「ああ、どんな建物なのか、大きさも位置もわからない」

「俺は知らない。スゥ。知らないか?」


 そうか! この女はスゥというのか!

 名前を知ったことで、チョットマはますますこの女が嫌いになった。

 怒りの対象が明確になったというわけだ。




「知らない。でも、心当たりはあるわね」

「おお」


「教えてくれ」

「いいよ。でも、今から行く?」

「そうだ。一刻を争う」

 ハクシュウが立ち上がる。

「全員、出発準備!」

 準備といっても、全員がすぐに走り出せる態勢は整っている。



 女は座り込んだままだ。



 チョットマはフライングアイに声を掛けた。

「パパ。起きてる?」

「ああ」

「よかったね」

 アギの思考時間は限られていて、時間が来れば強制的に眠らされるということを思い出した。

「後、どれだけ起きていられる?」 

「一時間四十二分程度」

 チョットマはそれをハクシュウに伝えようとしたが、女が先に口を開いた。



「かなり遠いよ」

「どれくらいか。遠くても構わない」

「一時間はかかる」

「なんでもない距離だ。案内を頼めるか」

「いいよ」

「ンドペキ、自分の部隊を指揮しろ」


 チョットマの胸に熱いものがこみ上げてきたが、それはたちまち女の声に水を掛けられてしまった。



「それはだめ!」

 なんてことを言うのだ! この女は!


「せっかくンドペキが政府の監視網にかからないようになってるのに、台無しにするつもり? ンドペキを危険に晒すのなら、協力はできない」

「なに!」


 ハクシュウは女と睨みあっていたが、やがて大きく息を吐き出した。


「あんたの言うとおりだな」

 そしてンドペキに向かって言った。

「悪いが、俺の隊に入ってくれるか」

 ンドペキが身を低くして、また謝った。

「すまない」



 チョットマはハクシュウに声を掛けた。

「急いで。パパは一時間四十二分で寝てしまうんだって」


 言葉の意味は全員に分かったようだ。

「了解。じゃ、案内を頼む」

「わかった。でも、通信は復活するんでしょ。ンドペキはここにいないことにしてね。私にも、不必要に声を掛けたりしないで」




 部隊は窪地を出て、女を追って駆け出した。

 チョットマは、できるだけンドペキの近くにいようと思った。

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