109 かわいい子を紹介しろよ
「進軍再開! 先ほどのフォーメーションどおり!」
パパがささやいた。
「昔の僕なら、今度、飯、奢れよとか、かわいい子を紹介しろよ、とか言うな」
「えっ」
意味がわからなかった。
「ドントマインドってこと」
ハクシュウから連絡が入った。
「その調子だ!」
それだけ言うと切れた。
隊長は見てくれていた!
そして自分だけに聞こえるモードで、褒めてくれた!
今までハクシュウからこんな風に扱われたことはなかったが、ハクシュウがンドペキらをこうして盛り立てているのだと知った。
この上なくうれしかったし、安心もした。
「パパ、その意味、今度教えてね!」
チョットマは予定時刻にそれほど遅れることなく本隊に合流した。
ハクシュウ直属の部隊に編入されて、チョットマはヘッダーの中で、長い安堵の吐息をついた。
全軍が停止していた。
夜の帳が降りている。
「各隊ごとに食事を摂れ。宿営地はまだ作るな」
ハクシュウが命令を伝える。
そしてまた、スマートモードで話しかけてきた。
「よくやった。今度、晩飯を奢ってやる」
「やた!」
「なんだ、嫌がらないのか」
「どうして?」
「顔出して飯を食うんだぞ」
「だって、顔を見ながらじゃなきゃ、本当の仲間になれないじゃないですか!」
「ふふん。おまえ、そんなこと誰に教わった? おまえのおつむじゃ考えられないと思うけど」
「うわ! 失礼ですね!」
チョットマは、幸せ感とはこういうものか、と思った。
「これをやる。褒美だ」
「えっ、わ! うれしい!」
ハクシュウが投げてくれたものは、手の平に収まるくらいの薄い鋼の板だった。
「ありがとうございます!」
十字になっていて、その先は指が切れそうに尖っていた。
「さあさあ、飯だ飯だ!」
隊員たちが集まってきた。
「さぞかし今日は、旨いものを食わせてくれるんだろうな!」
「えっ、そ、そういわれても。鍋、持って来てないし。かさばるし……」
チョットマは、いつもの食料チップを差し出した。
「冗談だ。ありがたく頂きますよ」
隊員がニッと笑った。
なんと、すでにヘッダーを外して、顔を見せていた。
隊の雰囲気が変わり始めていた。
チョットマも、恐る恐るヘッダーを外した。
自分の声が変に思われませんように、と祈りながら。