108 バカ! 命を守りぬけ!
チョットマはそれをすぐにハクシュウに伝えたが、了解、という言葉が返ってきただけだった。
そして最後尾を守ってくれている隊員に、「後方、要注意。特に街の防衛軍の動きに注意」と指示を出した。
こちらも、了解というだけだ。
隊員は不思議に思っただろうが、口にはしない。
表情が見えればいいのに、とチョットマはまた思った。
これまで感じたことのない思いだった。
顔を隠し、声音を変えて接触しあうだけの仲。
これを「友達」というのだろうか。
あの女がいった言葉、そしてパパの言葉が頭をよぎった。
「マシンと接触!」
左後方の隊員から、連絡が入った。
「交戦やむを得ません!」
すぐに指示を出した。
「援護隊員、現場に急行!」
「了解!」
「他の者は、減速四十キロ!」
「了解!」
「Cクラス三体! カートを守り抜きます!」
「バカ! 命を守りぬけ!」
モニタに援護隊員が猛スピードで菱形の左頂点に向かって移動しているのが見えた。
必然的に、チョットマが先頭を行くことになる。
これでよかったのか。
チョットマは自問した。
Cランク三体を三名で相手するなら、それほど難しいことではない。
「動きの速いやつですが、知能は低い。大丈夫です!」
後方から近づいた隊員が連絡してきた。
モニタを見る限り、後ろから向かった隊員がマシンをひきつけ、補給物資を持った隊員を逃がそうとしている。
チョットマは前方に注意を戻した。
命を守りぬけ、と叫んだ自分が不思議だった。
ンドペキから教わったとおり、前方七、左右後方二、戦闘中の隊員一の割合で意識を集中。
戦闘中の仲間がどうしても気になるが、任せておく。それが肝心だとンドペキは教えてくれた。
今、自分は隊長として先頭を走る。
自分の注意がおろそかになり、判断を間違うと、隊全体の危機を招く。
二分経過。
最初からマシンを回り込んで避ければいいのに。
よほどの相手でない限り、早く気づいて遠回りすれば戦闘になることはない。
少なくともそれだけの視界と脚力は持っているはず。
チョットマはそう思ったが、口にはしない。
ぼんやりしていたのではなく、避けられなかったのだ。
そう思うことにしなくては。
人を率いるということは我慢強くなくてはいけないのだ、と思った。
「Cランク、新たに六体。戦闘は避けられません!」
チョットマは停止し、命令を出した。
相手はすばやいタイプで、倍の数。
接触してしまえば逃げるのは難しい。
執拗に追われることになり面倒だ。
「一、三、四は戦闘! 五はカート回収!」
自分も含めた三名を戦闘に参加させ、相手を倒すしか手はないと判断。
戦闘に五分を要したが、隊員は全員無傷で、カートの損傷もたいしたものではなかった。
「中身は傷んでないか?」
「大丈夫です。これしきの砲撃ではびくともしません」
カートの持ち主は、弾を受けたカートの横っ腹や接合部を確かめながら、
「新品ですから。すみませんでした。お手間を取らせました!」と、謝った。
また、チョットマは顔が見えればいいのに、と思った。
顔が見えれば、微笑むことでも伝えられる。気にすることじゃない、と。
「後方から追ってくるものはありません」
「ンドペキ伍長のものらしきものは、今のところ見当たりません」
他の隊員が報告してくる。
このタイミングで言うのだから、マシンに掴まってしまった隊員に、気にするな、という気持ちを込めている。
自分も何か言わねば。
しかし、うまい言葉は出てこなかった。