106 友達って
チョットマはかろうじて体勢を立て直すと、逆襲に出た。
「あなた、あの異星人を撃ったでしょ。どうしてあんなことを」
相手は、ひるむ様子もなく、ふふんと笑う。
チョットマは畳み掛けた。
「それに、ンドペキとどういう関係?」
これにも、応えようとしない。
店員が見ている。
これ以上、ここで話すのはまずい。
店の中では生声が原則。
武器弾薬の専門店や兵士用のバーなど、つまり兵士のみが出入りする店では顔を隠すヘッダーやゴーグルをつけていてもいいが、その他の店ではそれらを外して入らなくてはいけない。
店に入ると同時に、チョットマはヘッダーを外している。
もちろん、店員はじめ一般市民は、だれも顔を隠してはいない。
会話はまる聞こえ。
「ちょっと待ってて。買い物を済ませるから」
チョットマは急いで大量の飲料を買い求めると、女を誘って表に出ようとした。
しかし、女は動こうとしない。
「この店の中の方が顔を見ながら話ができて、いいと思わない? そんなものをつけて話してても、友達になれないよ」
チョットマはたじろいだ。
友達?
友達になりたい?
女は、この店員は信用できるよ、と微笑んだ。
そして、チョットマの肩の上にとまっているフライングアイに目を向けた。
「そちらの方は?」
「信用できる方です。私のパパ」
店員よりよほど信用できるぞ、といわんばかりにむきになって応えた。
「そういうことじゃなくて、なぜここに?」
返答に迷っていると、パパ自身が口を開いた。
「あんた、質問ばかりだな。まず、この子が聞いたことに応えたらどうだ」
ビシリと言ってくれた。
「ふうん」
女は、品定めするような目でフライングアイを睨むと、そうよね、と素直に謝った。
「ごめんなさい。でも、まだそれは言えない。でも、もうすぐきちんとお話します。もうすぐです」
言葉遣いまで変わっていた。
「いつだ?」
「そうですね。たぶん数時間もすれば。遅くとも、明日になれば」
「自信があるんだな。それにまるで、ずっと一緒にいる、そんな言い方だ」
「すみません。これ以上、追求しないで。でも、きっとそうなると思います」
「じゃ、期待しておくよ」
「はい」
「で、そのとき、ちゃんと名乗りあって、君のいう友達になれるものならなろう」
「もちろんです」
女はチョットマに顔を向けた。
「あなた、急がなくちゃいけないでしょ。私もそう。会えてよかったわ。じゃ、また」
と、ドアを開けた。
「どうぞ先に行って。私はまだ買わなくちゃいけないものがあるから」
チョットマは外に出た。
「感じ悪いね」
「ああ」
「買い物は終わり。急がなくちゃ」
「走らないで」
「うん」
集合時間まで、後三十分。
部屋に帰りながら、チョットマは女が言ったことを思い出していた。
心に残った言葉がある。
「ね、パパ、さっきのやつ、顔を見て話さないと友達になれないなんて、言ってたよね。どう思う?」
そんなことはない、とチョットマ自身は思っていたが、自分の意見を先に言うのは苦手だ。
パパは、黙っていた。
「ねえ、パパ」
チョットマは、パパがバードのことを考えていると思ったが、何か話していないと辛かった。
ハクシュウから、街の北北西に進軍中、街からの距離百二十キロメートル地点、という連絡が入っていた。
もうすぐ、自分が指揮を執る補給部隊がそれを追いかけなくてはいけない。
やはり緊張していた。
やがて、パパが応えてくれた。
「君がいう友達と、彼女が言った友達はかなり違うんじゃないかな。ひとこと、友達っていっても、中身は違うだろ」
「じゃ、私が友達って言ってるのは、本当の意味での友達じゃないってこと?」
「友達、親友、知り合い、仲間、級友。それぞれ意味合いは違うだろ。ンドペキは君の友達かい?」
チョットマは、これまでそんなふうに考えてみたことはなかった。
仲間ではあるけれども、友達になりたい、いや友達なんだと思っていた。
なんとなく漠然と。
そう応えた。
「君の心の中では友達って思っていても、相手は違うかもしれない。仲間だと思っているかもしれない」
「そうだけど……」
「君がンドペキを大好きなんだってことは、分かってるよ。でもね、だから友達って呼べるのかい?」
チョットマは、難しすぎて自分にはよくわからないと思った。
「本当の意味での友ができれば、すべてがクリアに見えてくるよ」
「うん」
「もうやめよう、こんな話。頭で考えるより、たくさん友達を作って、親友と呼べる相手も見つけて、そして愛する人が見つかればいいんだから」
「うん」
チョットマは自分はまだ、そのどれも見つけられていない、と指摘されたような気がした。
でも、そうなのだ。
パパの言うとおり。
きっと。