103 うちの隊長なんだから
チョットマとコリネルスの元に、ハクシュウの一隊が合流したのは、午後を少し回った頃だった。
ンドペキはついに現れなかった。
「ここで解散する。午後八時にここに集合しろ。それまで、十分に休め!」
ハクシュウの命令の意味は、誰にでもわかった。
ンドペキの捜索に向かうのである。
ハクシュウの下にレイチェルから照会が来ていた。
ンドペキの行方について。
「各隊、十日分の食料を持て!」
どよめきが起きた。
十日分!
それ程長い行軍はかつてない。
まともに走れば、地球を半周できるかもしれない。
「弾薬、エネルギーがもたない隊員がいるかもしれない。各伍長は注意するように。では、解散!」
「もうここで見ていなくてもいいんですか?」
そう聞いたチョットマに、ハクシュウがニッと笑う。
「俺が見ている。おまえは帰って休め」
「私も交替に来ます!」
「おまえには食料や備品類を整える大事な仕事がある」
スジーウォンが駆け戻ってきた。
「ちょっと、あんた達! そんな話があるんなら、私に言わなきゃ。隊長こそ帰って休んで。そしてバッチリな作戦を考えておいて。私の隊で監視する」
スジーウォンはその場で、隊員に輪番を指示した。
「でも、うちの隊長なんだから」
チョットマはンドペキをスジーウォンに渡してたまるか、という気分が声に出た。
疲れている。睡眠不足だ。
だからそんなことを。
自分でもわかっていた。
「やかましい! ンドペキは誰にとっても、仲間なんだ!」
スジーウォンに一喝されて、引き下がるしかない。
確かに、一晩中しゃがみこんでいたせいで、膝ががくがくしていた。
「さ、帰った帰った! 先はまだ長いんだぞ」
チョットマはスジーウォンに甘えることにした。
仲間。
その言葉がなんとなく、うれしかった。
レイチェルの命令に背き、隊に連絡もなく勝手な行動をとったンドペキ。
今や罰せられてもいい存在である。
チョットマはそのことを気にしていた。
ハクシュウやスジーウォンや、パキトポークがどう言うだろうと。
八時に集合したとき、ハクシュウは作戦の目的を明示するだろう。
どう説明するか。
そして、隊員達がどんな反応をするか。
もし、とんでもないことを言うようだったら、とチョットマは顔を引き締めた。
部屋に戻るのは、憂鬱だった。
監視装置が仕掛けられているかもしれない。
誰からも連絡が入りませんように、と祈るしかない。
「あっ、パパ!」
部屋の前にフライングアイが浮かんでいた。
パパは、すぐにでもハクシュウに会いたいと言う。
「でも、今、私達、ンドペキのことで大変なの」
夜になれば、十日間もの作戦で街を離れることになる。
しかし、それを話すことはできない。
「隊長は疲れているし、忙しいと思う」
しかし、ちょっとだけでいいからと、パパは引き下がろうとしない。
緊急だから、と。
困ってしまった。
こんなとき、サリならどうするだろう。
サリのことを思うのは久しぶりのような気がした。
つい一昨日、シリー川でサリの顔を見たけれど。
サリなら、自分の信じる方に進むはず。
でも、私はパパもハクシュウも信じている。
もちろんンドペキも。
だから、どうすればいい?
「ねえ、チョットマ」
「はい」
「僕はひとりの女性を、心の底から愛している。その人が危険な状況にある。ところが僕には手も足も出ない」
ハクシュウの部隊の力が必要なんだ。
ンドペキのことで手が一杯だというのはよくわかっている。
だが、僕にはハクシュウやチョットマに頼むしか、もう手段は残されていない。
ここでは詳しく話せない。
それに一刻を争うんだ。
気持ちは決まった。
愛する人が危険な状況にあって、パパのようなアギなら、誰かに頼むしか方法はない。
その話を聞くことさえ拒むようなハクシュウではない。
チョットマは、その場でハクシュウに連絡を入れた。
「ンドペキのことじゃないんですけど、パパが緊急の要件で会いたいって」
最後まで聞かず、声が返ってきた。
「こちらもお会いしたい。エスコートしろ!」
思い出した。
そうだ、昨夜、ハクシュウもパパに聞きたいことがあるって言ってた!
「はい! 街中で話すことじゃないようです。なので、ブルーバード城門の外で待ち合わせたいです。いいですか?」
「好都合だ」
「すぐに、パパと向かいます!」