表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/325

102 充満している強烈な意思や、かすかな気

 どれほどの時間、そうしていただろう。


 時間の概念がどこかにいってしまった。

 目が覚めたのがほんの数分前のことだったのか、もう丸一日経っているのかさえ、わからなくなっていた。



 少し腕を動かし、体を動かした。

 相変わらず痛みはあるが、最初に感じたような鮮烈な痛みではない。


 立ち上がることに、どれほどの意味があるのかわからなかったが、少しでも移動すれば、何かわかるかもしれない。


 事態が好転するか、暗転するか。

 ふたつに一つ。

 だが、アヤは心を決めた。

 周囲に人はいない、という自分の感覚を信じて。

 充満している強烈な意思や、かすかな気が、悪意のものでないことを信じて。





 アヤは時間をかけて座り込み、また長い時間をかけて立ち上がった。

 立ち上がると、床が傾いていることがよくわかる。


 一歩を踏み出す前に、再び周囲を窺った。

 変化はない。

 埃っぽい臭いが薄れたように感じるが、それは床から離れたから。



 ためらいがちに声を出した。

「誰かいますか」

「あの、誰かいませんか。私はバードといいます」


 声は反響するばかり。

 相変わらず強烈な意思を感じるが、応じる様子はない。



 叫びたい衝動に駆られるが、思いとどまった。

 助けを求めるのは、この状況をもう少し把握してから。

 アヤはそろそろと右足を前にずらしていった。

 傾斜に従って。



 そして、右足に重心を移した瞬間。

 左足に違和感を感じた。



 転倒した。

 と同時に、左膝に強烈な痛みが走った。



 一気に血が噴き出したことを感じ、激痛が瞬く間に全身に広がっていった。

 足が切断された、と思ったとたん、意識が遠のいていく感触があった。




 ああ、もうこれは……。




 ここで死ねば、再生されるだろうか。

 あるいは死は認識されずに、再生装置は働かないかもしれない……。




 薄れ行く意識の中でも、おじさんのことは思わないように……。


 今日は火曜日?

 水曜日はいつもレイチェルとお昼ご飯を食べる約束をしている……。

 明日、彼女は残念がるだろうか……。


 アンドロのあの男は、私を探すだろうか……。

 あれこれと世話を焼いてくれて、アンドロの世界のことを教えてくれた……。

 名前は……、そうだ、ハワード……。




 もう思考は途切れ途切れ。


 意識が薄れて……。

 痛烈な痛みだけが……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ