101 感覚を研ぎ澄ませて
まず、ここがどこなのか。
これを知らねば。
通常、危険人物と判断されたマトは、一旦消滅させられ、その危険とされた思想部分、あるいは記憶そのものが抹消されて再生される。
最悪の場合は、完全なる死がもたらされることもある。
アヤは自分の思考が危険と判断されたのだと思った。
思想的な部分ではないし、罪も犯してはいない。
いや、もしかすると機密漏洩と判断されたのだろうか。
自分がその情報監視の任務についているのだから、危険判断の尺度はわかっているつもりだった。
おじさんに話した内容は、コンピュータはピックアップするだろうが、処分の対象にはならないはず。
それとも、監視員の違いによって、判断基準は異なるのだろうか。
一般的に、どのような罪でも留置されることはない。
そもそも、思考、思想といった社会に対する脅威や、詐欺や窃盗や傷害や殺人といった罪に、裁判などという制度もない。
判断に必要な材料は、すべて政府機関が握っていることになっているからだ。
裁判が開かれるのは民事上の争いだけである。
あるいは、自分が知らないだけで、なんらかの監禁期間があるのだろうか。
そうだとすると、今この時点で、自分の頭の中はモニターされていると考えた方がよい。
おじさんのことを考えてはいけない。
思考の中から追い出しておくほうがいいに決まっている。
暗闇を見つめた。
依然として、何も見えない。
鳥肌が立つような恐怖を覚えた
とんでもないことに、気づいてしまった。
まさか、自分の視覚機能が失われたのではないか。
ここは暗闇ではなく、自分が何も見えなくなっているのではないか。
周囲から監視されているのではないか。
思わず体を硬くした。
そして、全神経を集中して、あたりの様子を伺おうとした。
しかし、依然として完全な無音が続いている。
かすかな埃の臭いがするだけ。
アヤは自分が聞き耳頭巾の使い手として、夜の闇の中で木々の声を聞いていたときの感触を思い出そうとした。
本当は、聞き耳頭巾という道具を使わなくとも、木々の声に耳を傾けることはできる。
そのことを発見してからは、いつでも、どんなところでも、そういった感受性を人一倍発揮することができるようになっていた。
あの頃は。
神経が研ぎ澄まされてきたことを感じた。
いつ、何の前触れもなく、体が切り裂かれるかもしれない状況下。
それでも、冷静になれと自分に言い聞かせることができた。
そして、体の緊張を緩め、目を閉じた。
呼吸は穏やかになり、体の痛みも感じなくなった。
やがて、アヤは悟った。
ここは、どこかの地下。
周囲には誰もいない。
あるのは、強烈な意思を持った何か。
そして、何かわからないが、かすかな「気」を発している物体がいくつか置かれてある。