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100 記憶にあるのは、そこまで

 おじさんと会ったのは、わずか三回。

 最後に会ったのは……。


 そうだ、おじさんが大阪のマンションの部屋を模様替えしてくれていた日。

 あの時、シリー川の会談が話題になった。

 確か、こんな話をした。


「レイチェルはどうするつもりなんだろうね」

「えっ、レイチェル?」

「ニューキーツの街の行政長官らしいよ。若い女の子だけど、会談の代表者に指名された」

「そうか、レイチェルが……」

「ん? 知っている人?」

「まあね」

「アヤは、顔が広いんだね!」


 知っているどころではない。彼女こそが親友。

 親友とは言いながら、素性は知らなかったのである。




 レイチェルと知り合ったのは、庁内食堂。

 ひとりで食事をしていた彼女に、声を掛けたことが始まりだった。

 流行のファッションや、美容や健康のことが話の中心だったが、結婚観や子供のことを話題にしたこともある。

 未婚のレイチェルは、アヤの体験を聞きたがった。


 彼女は自分の立場や役職について語らなかった代わりに、食堂の希望メニューを、どのような手を使ったのか、実現してくれたこともあった。



「でも、ここ二週間ほど、とても忙しいみたい。アームストロングという街に行ってて、あまりニューキーツに帰って来れないみたい」

「長官ともなれば、そりゃそうだろう」

「パリサイドとかいう連中も来たし、いろいろ話し合うんだろうね」



 そんな話をしたとき、おじさんは、レイチェルはもしかするとホメムかもしれない、と感想を言った。


「びっくりだな。すごい親友を持ったんだな」

「一番の友達であることには違いないよ。毎日会うわけじゃないけど、ちょくちょくメッセージくれるし」

 そう応えたけど、びっくりしたのは自分の方だった。


 薄々、かなり上位の役職の人だとは思っていたが、まさか長官だったとは。

 そして、まさかホメムだったとは。

 だから、彼女は未婚だと言ったのだし、食堂のメニューをいとも簡単に変えてくれたのだ。




 おじさんと別れてからのこともなぞっていった。


 自宅に帰って、次の日もいつもどおりに出勤。

 そして、政府の建物に入り、最初のIDチェックを受けた後、長い廊下を歩いた。

 中にスキャンエリアがある。

 その先にある扉を開ければ自分が勤めているオフィスのある玄関ロビーに出る。


 そして、そう、午前中は普通に勤務した……。


 昼食時になり、建物の奥のリラグゼーションエリアの食堂に向かおうと……。


 そこにもまたスキャンエリアがあり……。


 あの日、いつものようにその扉を開けたはず。


 しかし、そのとき……。



 そうだ、扉の向こうは人っ子一人いない廊下だった。

 そして……。

 閉じ込められた……。



 あれからどうなったのだろう。

 記憶が曖昧だ。


 そうだ。

 気がつくと、いつのまにか目の前にドアがあった。

 そこを覗くと……。


 あっ、と思った瞬間、後ろから突き飛ばされるように暗闇の中へ放り込まれたのだった。

 暗闇の中に床はなく、落下した。




 記憶にあるのは、そこまでだった。




 アヤは、今おかれた状況を考えた。


 かなりまずい。

 政府機関の中で拉致されたのだから、相手はその中にいる誰か。

 助けは来ないと思っていい。


 しかし、誰が、何のために。

 アヤは背中が冷たくなっていくのを感じた。



 考えられることはただひとつ。


 おじさんと話した内容に、原因があるに違いない。

 どの話がまずかったのか……。



 おじさんは大丈夫だろうか。

 まさか、私のせいで……。

 そう思うだけで、震えが止まらなくなる。



 いや、そんなことを悔やんでいてもだめだ。

 今は。

 これからどうするかだ。

 意識を強く持たねば。


 私は聞き耳頭巾の綾。

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