パパ! 大変! サリが死んだ!!
兵士が街を駆け抜けていく。
しなやかで光沢のあるピンクのバトルスーツを身につけ、女性が好んで使用する軽くて機動性の高いショットガンを脇にさげている。
動きが若々しい。
コンフェッションボックスに駆け込み、ドアノブをガチャリとロックすると、緑色のランプを睨みつけた。
所詮ちゃちなセキュリティ。作動に、なぜこんなに時間がかかるのよ!
きっかり二秒後にランプがオレンジに変わり、待ちかねたように、兵士はグローブを外した。
ヘッダーとゴーグルの下から現れた顔はまだ幼い。
エメラルド色の瞳を生体認証にかけ、十三桁のアイディーを一瞬で打ち込む。
コンマ三秒後にコンフェッションボックスのコンソールは内壁もろとも消えうせ、五十平方メートルほどの広い部屋に立っていた。
「パパ! 大変! サリが死んだ!!」
部屋の中央に男がいた。
「さ、どこにでも座って」
女性兵士の言葉を無視したわけではないだろうが、にこやかな表情のまま、男はいつものように泰然と座っていた。
「おかしいのよ。殺されてからもう一週間も経つのに、再生しないのよ!」
部屋には、様々な椅子が置かれてあった。
女はいつものように、お気に入りの紫色のベルベットの小さなスツールに腰掛けた。
「今日は珍しくバトルスーツのままかい?」
「あーん、そんなことより!」
「サリが死んだって?」
「パパ」の部屋には様々な二十脚くらいの椅子が置かれてあるが、その配置は毎回違う。
女がいつも座るスツールは、今日は「パパ」の真正面に置かれてあり、まるで面談用の椅子のようだった。
「うむ」
「ウンじゃないわよ。こんなことってある? 一体どういうこと?」
男は静かに言い、微笑を消した。
「急がないのなら、詳しく話してごらん」