表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うすらいゲイザー  作者: 夕凪の鐘
第3章 新しい日常
37/52

37話 二人で仲良く

 突然の再会。北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)が天界から降りてきていた。武蔵浦(むさしうら)春桜(サクラ)は理由を尋ねる。


「これからよろしくって……ああ、やっぱり来る気になったのね!」


 思い返せば、アゲハが今まで地上にいなかったことがおかしい。彼女は天界の主の指令で、人間と霊体を間接的な知り合いにすることが目標なら人間を知るために地上で生活するよう言われていた。

 同時にサクラは天界から出ていいと許可されたので、二人で一緒に地上に行くはずだったが降りたのはサクラだけ。


 アゲハはサボった。発表会だからインパクトのある宣言をしてみただけで、今すぐ取り組みたいなんて意欲はない。地上へ行ったことにして天界の学校を休むと言って、天界へ残った。

 だが退屈で、やっぱり行きたいと考え直したのだとサクラは推測する。


「いや、バレた。報告書がうそくさいって」


 アゲハは地上研修の評価が良くなかった。天界でサクラと過ごした一ヶ月の思い出を、地上で得られた経験のように書いて提出したものの、再審査の必要ありと突きつけられてしまった。


「それで行く気になったの」

「ううん。無理やり連れてこられた」


 それでもごまかす予定でいたが居留守がバレて、地上へ強制転移が決まった。サクラがどこにいるか分からないから無理と足掻いたものの、得意の人探しで人づてに見つけ出せばいいと言い放たれて、知らない場所に来てしまった。



「ここに来るまで苦労したよ」


 サクラの知り合いか、その知り合いかそのまた知り合いか。とにかく数人を経由して彼女の家に着くことを目指し、達成した。


「そんなわけで、これからよろしく」

「……ええ。驚いたけど、これから頑張りましょうねっ」


 突然の再会。しかしサクラはアゲハとの地上生活は想像したことがある。天界で一緒にいた頃、地上との文化の違いにびっくりさせられたから、いつか地上で同じ行動をして違いを知ってほしいと思ったこともあった。

 それがこうして実現の瞬間を迎えたと思うと期待で胸が膨らむ。後方にいる妹、広小路(ひろこうじ)冬雪(フユキ)を置いてけぼりにして。



「待って、この人と一緒に暮らすの?」

「ああ、許可とらないと駄目よね」


 フユキに突っ込まれ、これは自分たちで進めていい話ではないと気づく。彼女も自分も居候の身だ。サクラは部屋を出て、家主に相談しにいった。


「オーケーだって!」


 また一人増えるが構わないと言われ、サクラは嬉々として報告する。フユキは追い出せず残念がった。


「さっきお姉ちゃんって言ってたけど、私こんな人知らないけど」

「ああ、それは代わりをお願いしたというか……」


 フユキにとってアゲハの第一印象は最悪だった。サクラのことを姉と呼び、それを宣戦布告と捉えると同時に、二人の関係に疑惑を抱いた。すぐに帰ってくれていたら見逃せたが、一緒に暮らすとなるとその関係をじっくり聞いておかなくてはならない。


「代わり?」

「私、地上に飛び込むのが怖くて……フユキの声が聞けたら勇気出せると思ったの」

「へ、へえー」


 サクラはアゲハに姉と呼ばれた経緯を説明する。雲を突き抜けて地上に降りるのは簡単にはできなかったから、フユキがいるつもりで挑戦した。だからアゲハに真似してもらう必要があり、そうと聞いたフユキはニヤけた。嬉しいが、自分のためだったという事実を知ると、代わりで満足していたと疑った自分が恥ずかしくなる。



「じゃあもう呼ぶ必要ないよね?」


 それはそれとして、地上に出て再会できた今、アゲハがサクラを姉と呼ぶ動機がない。そう気づいたフユキはアゲハに圧をかける。


「これはサクラが喜ぶから」


 対抗してアゲハは煽った。動機ならサクラが喜ぶ点がある。するとフユキの目が据わる。本気で邪魔者と認識した。


「私がいるからいいの」


 姉と呼ばれるとサクラが喜ぶというのなら、本物の妹がその役目を担えばいい。これからずっと一緒だから、部外者の出る幕はないと遠回しに言い放つ。


「前みたいにサクラと呼んで」


 フユキの神経を逆撫でしないようにサクラからも頼む。姉扱いされると嬉しいのは事実だが、そのせいで揉めるのは嫌だ。



「それより、ここの暮らしの話しないと。学校どうする? 私たちの所来る?」

「その話もしたいけど、まずは勝負させて」


 妹論争をしている場合ではない。今は五月の大型連休で時間はいっぱいあるものの、状況を把握しておかなくてはならない。


 だがそれは、皆でここに住む前提が成立してから決めること。その運命を決めるために、アゲハはテストを用意してきた。


「勝負?」

「ええ、その子と。フユキって言ったかしら?」


 三人ではない。アゲハとフユキの勝負。だがサクラは部外者ではなく、ルールを決めてもらいたい。



 必要な物は二枚の紙とペン。ただ今回の勝負だけに使うのはもったいないから、タブレットを二台用意しお絵描きアプリをダウンロードした。


「今から一つ質問するから、ここに◯か✕を描いて、せーので見せる」

「質問? 何の」


 はいかいいえの二択問題。同時に回答をオープンして勝敗を決める。どんな問題か、なぜその問題なのかはアゲハの使命に因んでいる。


「私は人間を知るために来た。人は対立するか、逆に協調するか」


 はいかいいえかで正解はない。クイズではなく心理テストだ。その答えで分かるのは、選択を迫られたときの判断の傾向。


「サクラは私たちにこう尋ねて。二人で仲良くできるかと」

「仲良く?」


 そして勝負の質問は、アゲハとフユキがお互いに親しく接する意思があるかどうかだ。



「一緒に暮らすなら、そういう意思がないと駄目よね?」

「そうだけど……」


 サクラは同感だが、二人とも◯と描くだろう。わざわざ同時にオープンして勝負する必要はあるのかと疑問に思う。


「二人とも◯なら皆で一緒に暮らす。◯✕割れたら、◯描いた方が出ていく」

「出ていく……なるほど」


 フユキは俄然燃えた。心理戦を制したらアゲハを追い返し今まで通りサクラと一緒にいられると分かって。


 けれども今のルールに聞き捨てならない部分があった。


「え、今◯が出ていくって言った?」

「言った。じゃないと✕描く意味ないし」


 仲良くする意思がない方が家から去るべきだが、そう合理的なルールを設けたらいいえと答えるメリットがない。

 正直に答えなくても影響がないのなら、嘘をついてでも無難な回答を選ぶ。


 そうと読めているから、あえて逆にしたのだ。



「問題は二人とも✕ならどうするかだけど」


 そこだけルールが未定。悩むアゲハに、サクラは提案した。


「そしたら私が出ていくよ」

「お姉ちゃん!?」

「……オーケー。つまりは」


 二人とも仲良くする気がない。勝負がかかっているとはいえそんな回答をした暁には、姉としてけじめをつけるべく、二人から離れると宣言した。フユキもアゲハも驚いた。だがアゲハは納得した。


「仲良くできるかの答えが◯◯なら皆で一緒に暮らす。◯✕なら◯が出ていき、✕✕ならサクラが出ていく」


 サクラはアゲハの要約を聞いて、思いきった提案をしてしまったと自覚するが受け入れた。二人を信じれば、一番良い結果に辿り着く。


 一方でフユキは迷った。アゲハを追い出すには✕一択。けれども向こうも同じことを考えてきたら、代わりにサクラを追い出してしまう。かといって◯は自分が追い出されるリスクがある。


 相手の回答がどうであれ、自分を守りたいなら✕、サクラを守りたいなら◯。迷っているのに、サクラは待ってくれなかった。


「じゃあ聞くわ。二人とも、お互いと仲良くできるよね? せーので答えて」


 サクラは問いかけ、二人が回答を描くのを待った。



 アゲハとフユキは◯✕いずれかを描いてタブレットを裏返す。そしてサクラの合図で回答をオープンした。


 結果は二人には見えない。サクラは二人の回答を見て、目を見開き、そして瞑る。フユキは心配そうに目を向けるも、隣の回答を覗く勇気は出なかった。


「二人とも、一緒に暮らそうねっ」


 フユキは驚き、アゲハのタブレットを見る。回答は二人とも◯で、結果は皆で一緒に暮らすと決まった。


「お姉ちゃん! よかった……」


 サクラと離ればなれにならずに済み、フユキは思わず胸に飛び込む。そうなることはないと信じていたサクラは、冷静に優しく受け入れた。


 なおアゲハは、フユキの✕を期待して受入先がないのを言い訳に天界に帰る算段が失敗に終わり、残念がっていた。



「じゃあここに住むと決まったので……学校は? 一緒に来る?」

「いやー、行きたいけど制服が」


 天界の指令がどこまで厳しいのかは分からないが、人間を知るには同世代と同じ生活を経験するのはアリと考えるサクラは、編入しないかと提案する。フユキもそこに通っているから仲良くなるチャンスだ。


 だがアゲハは乗り気ではない。極力楽に暮らしたいから、どこにも通学したくない。かといってそんな怠けたことを呟いても通じないのは読めるので、行きたいけど行けないと言い張ってみた。


 サクラは真意に気づいていないものの、解決策があり嬉々として答える。


「制服なら私のを貸すわ。夏服と冬服で二着あるもの」

「えっ、ズルい」


 届いたばかりの制服があるし、連休中に注文すれば衣替えに間に合う。だから心配要らない。


 合理的だがフユキはサクラの制服を着るアゲハを羨ましく思い、だったら自分のを貸したい。


「私が貸すよ!」

「余ってないでしょ。さっきクリーニング出したし」


 けれどももう遅かった。フユキも新しく手に入れたが、今まで着ていた方は当面着ないからとクリーニングに預けてしまった。


「キャンセルで」

「迷惑でしょ!」


 かといって今ある分で解決するのに返してもらいにいくわけにもいかない。

 フユキとサクラでサイズも異なるから、最初の提案通りアゲハはサクラに借りることになった。本音は休みたいアゲハにとっても得しない結果となった。



「というか制服くらいないの?」

「あるけど、ねえ?」


 先月までのサクラがそうだったように、別の学校の制服で当面を凌げばいいとフユキは言う。天界の制服はあるが、地上で着ることに抵抗がある。

 そんなアゲハは、気持ちはサクラも分かってくれると思い、話を振る。


「確かに、ここで着るのは」

「あっちだと違和感ないけどさー」


 フユキは天界の制服のデザインを知らない。けれども二人は知っている。そんな二人の会話に混ざれない。天界では皆が着ているもののその格好は地上だと浮く、という話についていけない。


 だからサクラが着てみせた。


「お姉ちゃんかわいい!」


 天界の制服はアゲハが持ってきていた。地上の学校に着ていく用ではない。これはサクラに貸していた方で、彼女の元へ辿り着くまでの孤独を紛らわせるための代用品。

 それを着て地上の学校に通うと目立つと視覚的に分からせるために使うことになるとは思いもよらなかった。


 そんなアゲハの内情を知らないサクラは、夢中で撮影するフユキの気が済むまで我慢した。



「そうそう。ランクというのがあるみたいな話だったようなのだけど」

「ないよ」


 アゲハは地上に来て測定した特殊能力の件で話があるが、フユキが遮った。彼女はアゲハがサクラの"同期"になることを嫌い、測定の先送りを図る。


「いや、さっきやったし」

「そんな」

「あ、本当だ」


 しかし手遅れ。ランクもコードも登録されている。だが測定は五月になってからだったので新しいコードが割り振られており、四月に行ったサクラの"同期"ではなかった。


「Bランクってことはフユキと一緒ね」


 サクラに先に言われてしまったが、アゲハの言いたいことはまさしくこのこと。能力のランクはフユキと同じだということだ。

 そうと聞いてフユキは安堵する。アゲハがサクラと"同期"になることも、同じランクになることもなかったと知って。


「そういうことだから、よろしくね」


 アゲハにとって付き合いはサクラの方が長いが、今後はフユキも一緒にいる。そうなると同じランクの彼女との関わりが多くなるだろうから、せっかく同じ屋根の下で暮らす相手と仲良くしたい。そんなわけで握手を求める。


「……ええ、よろしく」


 フユキはこっそり雪で冷やした手で握り返した。彼女にとってのアゲハは、サクラに言い寄るお邪魔虫という認識で固まってしまっている。



「というかあなたはどんな能力なの?」


 フユキは自分の能力を発動して気づいた。階級を聞いただけで能力の性質は知らない。


「声を真似る能力よ」


 アゲハは蝶を三頭生み出し、一頭を口元へ、二頭をフユキの両耳へ飛ばす。この動きにサクラは見覚えがある。


 そしてアゲハは声を出した。大好き、大嫌いと交互に。そしてそれらの声は、サクラの声色で響いた。


 サクラの声で交互に愛され罵倒され、フユキは立っていられなくなるほどに情緒が狂った。


 能力の説明は十分だからイタズラはもう止めるようサクラに言われ、アゲハは黙った。


「希望があればどんな言葉も囁いてあ・げ・る」

「調子に乗らない。言葉って怖いのよ」


 仲良くするきっかけを見つけてくれたのは嬉しいが、悪ノリはしないよう、釘を刺しておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ