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13.共同作業―――チームワーク

 

 廃材を切って、釘で打つ。

 それだけの日曜大工だが、慣れていない者には意外と難しい。


 壊した宿屋の二階の修繕をすることになった。


「お前は動くなよ、魔女が。お前ら見張っておけよ」

「あらあら、感じ悪いですね」


 ラプラスに命じ、ブリジットたちに指図するラブロー。

 ラプラスはさっそく立ち上がり女将さんの代わりにお茶を淹れ始めた。

 威勢よく作業を開始したラブローだが、木材を剣で斬り分けようとしてバラバラにした。



「ラブロー、何をやってるんですか、貴方は!」

「うるせぇ、そういうお前はおせぇんだよ、メガネ!!」


 角度と長さを図っているラファの手元にはびっしりと数字が書かれている。正確さを求めるあまりに全く作業が進まない。



「アンタら、お偉いさんはこんなこともできないのかい? もういいあっち行ってな」


 女将さんに呆れられ、二人は落ち込んだ様子で掃除をし始めた。


「で? この中に経験ある庶民はいるのかい?」


 見かねたブリジットが立ち上がるのをリクが止めた。

 彼女は手先が不器用というわけではないが、こういう手仕事ができるほど器用というわけでもない。彼女も自覚があるためか、大人しく引き下がる。

 リクはカルルオスに視線を移す。


「魔導の探求に比べれば床の補修と窓枠の作製くらい易いもの。おまかせを」


 カルルオスが無造作にノコを木に乗せる。中々照準が定まらない。ガリガリと不協和音を奏でながら、ノコは動いたりとまったりを繰り返し木材から外れる。



「もうやめましょう。ノコが欠けます」


 見かねて彼を止めたのはラプラスだった。

 言葉は優しいが憐れみの眼でカルルオスを見る。


「なっ……」

「子供の頃にお父さんに習わなかったのですか? 家や庭の整備ぐらいするものでしょう」

「あ、いや……私は貴族の出で、こういうことは」

「私がやりますので、休んでいてください。さぁ、お茶でも飲んで」


 カルルオスは不服そうな顔をする。魔物にあきれられたことが彼の中でかなりショックだったらしい。

 しかし、彼女がてきぱきと大工仕事をするのを見て、言い返す言葉など無かった。



「ふむ……」



 リクがその仕事ぶりに感心する。



「君もこういうこととは無縁でしたか? 出来ていて損はありません。興味があるならお教えしますよ?」

「いや」



 リクはラプラスが切り出した木材を手際よく小刀で削り溝を掘り、組み立てていく。

 女将も関心して覗き込む。

 他の窓枠と同じ紋様を正確に刻んでいる。



「随分お上手ですね。そのぐらいの年で木工作業ができるのは材木屋か家具職人の子、ですがそれではあの魔法戦闘の技量が説明つきませんね」

「そういうあんたこそ、魔物の割に人間の生活に詳しいな。いや、その手際は一朝一夕では身に付かないだろう」

「疑問の答えが複雑だと思い込むのは賢い者によくある間違いです。まずは疑問の前提を良く捉えることです」

「魔物が何故……」



 ラプラスは笑みを浮かべる。



「魔物で合ってるよな?」



 あれだけの見るも無残な状態から一瞬で元に戻った再生力は人間のものとは思えない。



「異常に再生力があり、不老不死の人間、という可能性もありますよね」

「人間なのか?」



 ラプラスは作業を続ける。



「さぁ、分かりませんね。ただ、これでも夫と四人の子供がいますし、孫のそのまた孫、そのまた孫まで含めたら結構な大家族です。自分なりに人間として生きてきたつもりです」



 ラプラスの衝撃的な告白。

 皆半信半疑で聞いていた。


「ですが結局、自分をどう定義するかより、人が私をどう見るかに依ります。家族からは小言のうるさいお婆と言われてます」


 唯一リクにはわかった。それが事実だと。

 垂れ流した魔力では花を開花させることはできない。品種や土壌についての知識が必要だ。

 職人の技巧は一朝一夕では身に付かない。

 理屈で知っていても、実際に数をこなさなければ木は思うように切れないものだ。

 人に間違いを諭すような言葉選び、そこには人対人の会話の中でしか培われない、思いやりの精神が根付いている。


 なにより彼女の淹れた茶は美味い。 


「そうか。なら、あなたは人間だ。失礼な事を言って申し訳ない」



 リクが頭を下げるのをラプラスは微笑み受け入れた。



「柔軟で過ちを受け入れる潔さ。そういう子は将来出世していい奥さんに出会えますよ。見てきたからわかります」

「そんなこともない。経験したからわかる」

「アラ……優れた才覚を持つ人にはよくいるんです。ちょっと鈍感な方って」

「察しは良い方だと自覚してるんだけどな」


 自然と笑みがこぼれる二人。



 ◇


 作業を終えて、リク、ブリジット、カルルオス一行はラブロー、ラファに加えラプラスの三名と共に情報を共有するに至った。


「我々は塔へと戻ります。神聖獣エクセリオン様の預言により、聖魔法を使える方がリクさんを訪ねて来るのを待っていたのです」


「おれたちはその女を探していた。聖堂の沽券に関わる存在だ」

「魔物が聖魔法を使えるとあっては不安を招き、聖堂への信頼が失墜するでしょう」



「私の目的は果たしました。村に帰ります。ただ、リクさん、あなたにこの恩を返した後でも良いでしょう」


「おい、聖堂は本来ハラスの力に対抗する存在だろう。協力しろ。お前たちもリクに借りがあるだろう」


 異論は出ない。

 話はまとまった。

 六人で塔へ。


「ところで、気になっていたんですが、リクさん、君は何者ですか?」



 ラプラスは疑問を投げかける。


 彼女の眼に、リクは年相応の少年には見えない。

 その問いに、聖堂の二人も興味を示す。

 彼らから見ても異質。


 しかし、そう問うには各々自分たちの素性を隠し過ぎていた。



 ラプラスは聖魔法そのものを広めた、最初の聖女だった。彼女はハラスの成体となった後、その力に抗い聖魔法を獲得した。元は普通の人間だった。



 聖堂が彼女を危険視するのは表向き聖魔法を使えるハラス成体の存在を隠蔽したいから。しかし、聖堂が彼女を追い始めた数百年前、理由は異なった。

 聖堂の起源がハラス成体であることを隠すためだ。



「塔の問題を片づけたら話そう」

「信用して下さらないのですね」

「信用などできるか、魔女め」

「やめましょう、ラブロー。利害の一致で共闘するだけ。仲間意識など必要ありません」

「妙な真似はするなよ。私はお前たちがドドを殺しに来たことを許していないからな」

「まぁまぁ、ブリジットさん、塔は目の前です。冷静に」



 塔の魔導師、冒険者、神官、聖騎士、祭司、そしてドラゴンの魔力と無双の風格を纏う少年は封鎖された塔の領域へと足を踏み入れた。



 そこはハラス成体と化した魔法『グリモア』によりすでに魔境へと堕ちていた。



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