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12.起源の魔女―――ラプラス

 

 リクの『纏・形成』がラプラスを取り囲んだ。

 ラプラスの『浄化』がリクの内部に巣くうハラスの因子を消し去った。


「礼を言えばいいのかな?」

「年長者には敬意を払うものですよ。少年?」


 そう言って魔力の壁から消えた。


 ラプラスはリクの背後にいた。

 そのまま、リクの首に手を伸ばす。

 リクは背後に迫る手を取りラプラスの身体が宙に浮いた。



「あら?」



『纏・形成』の応用関節技『楔』が全身を拘束。

 受け身を取れない状態で投げる。


 地面に叩きつけられるより前に、消えた。



「エルフの技に似ていますね」


 リクの背後に立っていた。

 瞬間移動。

 リクは目途を立てた。



(移動先を読めば捕まえることは可能だな)



「それでバルバトスを殺したわけではないのでしょう。さぁ、チャンスですよ」



 リクはスリングショットをお見舞いした。

 瞬間移動で回避された。


「今度は狩猟技ですか。多才ですね」


 ラプラスはリクの斜め後方へと移動。

 そして態勢を崩した。


「おっとっと?」


 瞬間移動した位置にリクの魔力の塊が居座っていて衝突した。押しのけられる形で態勢を崩したラプラス。上を見上げる。

 そこにはリクの魔力だけがあった。

 魔力を追うようにしてリクの位置を確かめていたために、騙され完全に隙を生んだ。その間リクは魔力を絶ち、目の前に迫っていた。



 瞬間的に魔力を爆発させ加速する。

『閃光』の走り『閃』



 再びリクの景色が変わった。



「やはり、そうなるか」


 今度はリクが瞬間移動させられていた。

 来た時もリクごと瞬間移動していた。リク単体を移動させることも自在。



「さっきから使っているそれは聖魔法か?」

「そうですね。召喚魔法に近いものです。それよりも、言葉遣いを」


 ラプラスの手元に弓が現れる。魔物の骨を組み合わせた禍々しい大弓である。弦は魔力、弓は青白い炎。

 周囲の魔力を浄化し、分解していく。


(おれの魔剣の上位互換っぽいな。当たったらヤバそうだ)


 リクは注意深く全方位に神経を張り巡らす。

 不意に両者が消えた。

 ラプラス、『召喚・往』でリクの頭上へ移動。

 対するリク、『閃』の連続発動『連閃』により、ラプラスの視界の常に外へ。

 リクを見失ったことで『空間把握』を用いるラプラス。リクを発見し狙う。

 ラプラスの顎目掛け、魔力の塊が伸びる。寸前で青白い炎が分解する。

 リクの『纏・形成』を応用した魔法打撃『腕』と、ラプラスの聖魔法と火魔法の複合魔術『浄焔』の壁の応酬。

 その間も二人は目まぐるしく、縦横無尽に移動し続ける。

 膨大な魔力を持つ者同士、単発の攻撃は通らず、圧倒的魔力出力の複数使用をもってしても牽制にしかならなかった。



「っ!?」



 ただし、それはラプラス側の思考であった。彼女はリクの正体がラブロンの荒神であることを知らない。


 莫大な魔力戦の中、『浄焔』の壁を突き抜けた攻撃がラプラスの体に風穴を開けた。


「魔法の応酬にただの礫を紛れ込ませるとは、賢いですね」


『連閃』と『腕』を連発する中、スリングショットでラプラスの意表をつくという離れ業をやってのけた。

『召喚・往』による移動が止まり、『腕』による的確な打撃がその身体を捕らえる。

 思考を司る脳を揺らす顎先への打撃『チン』。移動を阻止する三半規管への衝撃『アンダー・ジ・イヤー』、呼吸を止める水月へ突き。


 魔力によって無限の手足を得たリクから逃れる術はなく、ラプラスは成す術無く削られていく。

 ラプラスは再生する力を持っている。しかし打撃による圧殺の速度の方が勝っていた。

 次第にミンチになっていく身体。



「お待ちを!!」



 赤黒い肉塊と化したそれが活動を完全に停止する寸前、カルルオスがリクを止めた。



「カルルオス……」



 風に乗りブリジット、ラファ、ラブローを置き去りにし、リクの視界を遮って目の前に降り立った。


「預言に従って下さい」

「分かっているよ。確かに相当な聖魔法を使えることを確認した。ただ、向こうもこっちを殺す気だから、このぐらいしないと止められなかった」

「そ、そうですか……」



 遅れて駆け付けてきたブリジットたちはラプラスを即刻討伐するべきと考えたが、リクに制止させられた。



「あのラプラスをここまで追い詰めるなんて」

「この機会を逃したら討伐できないぞ!!」

「いや、そこまで強くは無かった」


 リクの言葉に二人は絶句する。



「確かに聖法術は見たことの無い次元だったけど、それ以外は特別強いわけじゃない。おそらく、最初のハラス成体だからだろう。道具に頼っていたのがその証拠だ」

「なるほど、ハラス成体としての力は拡散し、増殖し、奪い合うことで高められる。最初のハラス成体はその過程を経ていない、と……?」

「でも、リク。こいつが私たちに協力するのか?」

「たぶんね。ところで、そこのお二人に折り入ってお願いがあります」

「え? 私たちにかい? 君は―――?」



 困惑する暇は二人の元刺客には無かった。

 ハラスの因子が個体を渡る条件を満たした。ラプラスの身体からハラス因子が黒い靄となって姿を現し、新たな宿主であるリクへと向かう。



「うぉぉお!!?」

「『浄壁』で囲みますよ!! 『熾天』、『浄火』で焼いて下さい!!」

「もう刺客じゃねぇんだ!! 『熾天』って呼ぶなって言ってんだろ、インテリ眼鏡!!」



 二人はパニックになりつつ、リクに向かったハラス因子の浄化に成功した。



「無茶しやがってクソガキ、おれたちが間に合わなかったどうすんだ」


 怒りの治まらないラブローが拳骨を落とそうと試みるもパシリと弾かれてしまった。



「あっ、コラぁ!! 待てぇ!!」

「最初におれを『浄化』していたのは、これが望みだったんだろう?」


 リクが話しかける。すでにラプラスは復活を終えていた。

 


「バルバトスを殺せるほどの者ならば、もしやと思いまして。ああ、息子を殺したことは恨んではいません。あの子はハラスの力に取り込まれ、自我を失っていましたから。むしろ、止めていただき感謝しています」

「ど、どういうことだ、リク?」

「こいつは、おれに追い詰められ仮死状態になることで、ハラスの力から解放されるよう仕組んだんだ」


 そのことにすぐ思い立ったのはリクならではだった。

 彼自身、そういった方法を考えていたからだ。

 自分が人間に戻るために。


「こいつなどと言う口はどのくちでしょう? 子供の内から言葉遣いを間違えると大人になって苦労してしまいます。直しましょう」



 ラプラスはまるで教師か何かのように話した。

 振り乱した髪を直し、血の汚れを浄化し身なりを整える。その様子は改めて見ても人間そのものだった。

 状況を説明されても事態を理解するには各々情報が足りなかった。


 二人の元刺客は依然としてラプラスを警戒する。ブリジットはその二人から目を離さない。カルルオスは話し合いの場を求める。

 だが、リクとラプラスには必要なかった。



「恩義に報いるという姿勢は、犬畜生でも持ち合わせているもの。果たして、魔物にもあるかな?」

「どうでしょうね。私は無償でも助けを求める方には力を貸す主義ですが」



 二人の戦いで荒れ果てた花畑が再生していく。

 ラプラスは力を示した。


「ちょっと、アンタたち!! うちの二階を荒してそのまま行く気じゃないだろうね!!」

「「あっ今戻ります」」


 宿屋の女将に怒られた五人は宿の修理をしに戻った。



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