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9.大迷宮

 

 王都より東の大迷宮で、異常事態が起きていた。

 冒険者たちが立て続けに失踪。


 しばらくは冒険者ギルドも様子見をしていたがそうも言っていられない。なにせ何かに追い立てられるように迷宮から魔物が溢れて集落へと流れ込んでしまった。

 貴族と冒険者ギルドは連携して大迷宮への調査隊を組織した。



「―――調査隊は計3回組織され、大迷宮に赴いた。わかったことは2つ。これにはハラスの因子が関わっている。そして、精鋭以外に問題解決は不可能だ」


 話しているのは9星冒険者。

 それを聖騎士と王宮騎士、塔の魔導師が見守っている。全員、マスタークラス。

 力関係のすり合わせと立場の認識は済んでいるらしい。


 説明を受けている新参は二人。



「では今度はそちらだ。自己紹介から頼む」


 仮面の女がぼそりと呟くように口を開いた。


「ブリジット。冒険者。英雄職。9星。剣と光魔法が使える」


 次いで横にいた褐色の少年。



「リクです。魔法が使える。主に索敵と防御を担当してます」

「うん。噂は聞いている。南からこっち、二人組の冒険者が数々の功績を上げていると……」



 全員の視線がリクに集中する。

 疑念の眼は慣れている。


「自己紹介替わりに一芸をば」


 おもむろにコインを取り出し、それを思いっきり投げた。


 投げたコインは中空でカランと結界の中に封じ込められた。

『纏・展開』の応用結界術。


「大した芸だな」



 おもしろがった冒険者の一人がコインを取り出した。三枚だ。


 リクが頷くと男は投げた。

 空の彼方に飛んでいくコインはまたもやカランと魔力の箱に捕らえられた。



「おお……」

「若いのに大したものだ」

「魔導士には珍しく、眼と感応が良いと見える」

「じゃあ次だ!!」



 調子に乗った冒険者が両手いっぱいに銭貨を握り、思いっきりばらまこうとした。



 だが、その身体が止まった。



「さすがにそれは無理です」



 首、肩、腹、腕、脚が固まり拘束。

 リクの結界が男の動きを絡め取っていた。



「う、動かねぇ……」

「驚いたな。見たことの無い結界の使い方だ」



 関節を極めているため、力で対抗しても外せない。結界同士が拘束具のようにつながって纏わりつくことで動くだけ他の場所が極まる。



「実力は分かった。申し分ない」

「どうも」




 ◇


 リクとブリジットは迷うことなく、目的地へと進んだ。先に進むごとに力関係は整理されていった。


 迫りくる魔物の軍勢。

 求められる的確な対処。

 不意の遭遇。

 命がけの情報収集。

 不可避の戦闘。


 あらゆる困難をリクとブリジットの二人が突破していく。



「はは、おれたちは要らないな」

「そんなことは無い。私とリクが寝ている間見張りが要るだろう」

「感じ悪いよ、ブリジット」

「でも、本当のことだろう、リク?」

「おれは寝なくて平気だ」



 迷宮の全容は明らかになった。

 いくら調査隊を送り込んでも死者が増えるだけだった理由。それは脅威の正体が一定期間で変わるからだ。

 最初はゴブリン。

 次いでゴーレム。

 トロール。

 ミノタウロス。


 その原因。

 ミノタウロスが手にしていたのは剣。

 それもただの剣ではない。

 手にしたものに力を与える代わりに命を奪う、諸刃の剣。


 ミノタウロスは生命体としての体裁をギリギリ保つ形で剣を振るだけの宿主と化していた。



「本体がまさか剣だったとはな」



 ミノタウロスが剣を掲げただけで、斬撃状の『放撃』が周囲を無差別に破壊していった。



「あれでは近付けんぞ」

「前回はどうしたんでしょう?」

「魔法での遠距離攻撃を仕掛けた。けど、ダメだった。あの斬撃が宿主を護ってる」

「その前は?」

「盾だ。あの斬撃を盾でしのぎ接近を試みた。だが盾も斬られて無意味だった」

「前回はトロール、その前はゴーレムだった。宿主の遅さをカバーしていた」

「ミノタウロスは本体も早い」



 調査隊はあきらめムードに陥る。



「ブリジット」

「わかった」



 制止を振り切り彼女が飛びだした。斬撃の照準が彼女に集中する。



 リクはその一瞬で、ミノタウロスの動きを結界で封じた。

 すぐさま斬撃が結界を破壊に掛かる。

 しかし、剣から放たれた斬撃は結界に届く前に無数の盾で防がれた。



「馬鹿な、全て受けきっているというのか!?」



 時間にして数秒だったが、ブリジットには十分だった。


 光の瞬きと共にミノタウロスの首と胴、腕が落とされた。



「聖堂師の方、お早く」



 呆気に取られていた調査隊。

 聖堂師が慌てて封印を試みる。

 手を離れても斬撃は無作為かつ無制限に周囲へ放たれる。

 しかし、その全てをリクは受け止めていた。



「全部受けきってやがる」



 コインをばらまいて全てに対応するより難しいだろう。


「できんじゃねぇかよ」


 剣はその場で封印。


 ハラス成体との戦いとしては新記録として歴史に残る。



 元は聖剣。銘はダインスレイブ。

 だったらしいが、どこかで間違いがあったのか、いつの間にかハラスの成体と化していた。

 成体はただ因子を継承しているだけではなく、それ自体が感染源となる。



『ダインスレイブ』は手にした魔物に力を与えて移動し、移り行き迷宮の外を目指した。この異常事態に迷宮の内の魔物は大移動を始め、追い立てられたものが玉突きのようにして地上へと溢れたのであった。

 ゆえに、調査隊が新たな宿主に遭遇するのは早かった。


 いや、早かったと言えば『ダインスレイブ』を手にしたミノタウロスを討伐するまでだ。



「あの……リクさん」



 塔の魔導師はリクの魔法に興味を抱いた。

 無名でありながら、その魔法の精度と速さに魔導の神髄を見た。



「お話しがあります」



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