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6.異変―――オークキング


 冒険者が閲覧する魔物の書にはこう記載される。

 

【オーク】とは・・・・・・


 鈍重な魔物。注意すべきはその腕力と再生能力。

 魔法を使う個体は少ない・・・・・・

 各地方で個体差は生まれるものの、その体格、能力は一貫する・・・・・・


 ただし、ごくまれに突然変異による突出した個体が出現することがある。

()()()』、である。



「きゃぁぁぁ!!!」


 村娘が叫ぶと同時に駆け出した。

 

 蹂躙を繰り返し味を占めたオークが次なる獲物を求め大挙して押し寄せた。

 樹々を押し倒し、石積みを跳ね飛ばし、家屋へと唸り声を上げて突撃してきた。



「早く避難しろ!!」



 村に駐在する兵士と冒険者が退避を促す。


 オークは鈍重だ。

 だから逃げることは不可能ではない。しかし、巨大な肉塊が、破壊と共に大挙すれば人は恐怖心で身体が竦む。事前に冒険者たちが大勢殺されていると知っていれば効果はてきめんだ。

 兵士ですら、脚が震えている。死を覚悟していた。



「下がれ!」



 そこに、巨躯の剣士。



 ローブを纏う、大男。

 単身、オークの軍勢に立ち向かう。

 腰の大剣を抜くと同時に振り抜いた。



 その背中は「加勢の必要はない」と語る。



 兵士たちは息を飲み下がって防衛ラインを築く。



「魔力を込めないのか!?」



 軍勢対一人。

 激突。

 距離を一気に詰める運足と、鋭い突き。

『閃光』



 先頭のオークは腰から先が吹き飛んだ。マントを翻し、舞うようにオークの間を駆け抜ける。

 男が通り過ぎる度、血と臓物をぶちまけるオーク。



 はるか後方で見守る兵士たちは、ヘルメットの隙間越しに見ていた。



(なんか、きれいだ……)



 数と質量の暴力を剣技のみで圧倒する。

 浅ましい野蛮さを知性と訓練された直感が凌駕する。



 急所を狙う的確な突き。

 振り下ろしへの素早くコンパクトな一文字斬り。

 巨体を吹き飛ばす豪快な逆袈裟。

 背後の敵をまとめて払う回転斬り。

 不利な体勢を覆す起死回生の振り下ろし。




 オークは魔力を纏い、タックルを繰り出す。

 片手で簡単に潰し転がした。

 剣の振り込みのための踏み込みで首を潰した。



「あんな簡単に……」



 雑兵を壊滅させると、一際大きい個体が現れた。

 オークキング。


 多くの冒険者を葬った個体。

 鈍重であるはずのオークが、高速で突っ込んできた。


『放撃』を利用した、ジェット噴射のような移動術。

 こういったセオリーにない独自の戦法を取る個体は、騒乱の時代に生まれやすい。


 脅威度判定が役に立たない。

 それはハラスの活動期に入ったことを示していた。



(早い!?)



 オークキングのジェットタックルを闘牛士のようにひらりと切って潰そうとした。



「ぐっ!!」



 触れた手が弾け捻じり折れた。

 オークキング、すぐさま『放撃』で反転、急加速。

 男は距離を取ろうとする。



「逃げるな!!」



 凛々しい女の声が響き、耳から脳へ伝達するよりはやく、男は感じ、反応した。



「危ない!」



 直撃を受けた。

 いや、避けなかった。


「うぉぉぉおぉおおお!!」

「グォゴゴ!!?」


 オークキングの巨体が止まった。


 自らぶつかりに行った。魔力の放出による加速前に。


『剛力』×全力


 一瞬で全てを絞りつくした。



「……なんて度胸だ!」



 兵士が感嘆の声をもらす。


「いや、へたくそだよ」

「えぇ?」



 声の主は仮面をした冒険者。



 オークキングを止めて、その巨腕を抱えて固めて投げた。



「そりゃああああ!!」



 決り手は『小手投げ』



「グッゴゴ!?」


 地面に顔から突き刺さり、土が舞う。


 ダメージは無い。

 再び加速のため魔力を貯めるオークキング。



「シッ!」

「グゴ?」


 それより前に首が飛んだ。


 空気を裂く美しい音。

 片手水平斬り。



「すごい、たった一人で……これが」



 退避していた村のギルド職員は、その戦いを見届けた。


 オークキングの身体から黒い靄が立ち込める。

 すぐさま村の神官が聖法術で囲み、払った。

 毒を中和するようにそれは光の中消えた。



「よし、いいぞ!!」

「倒したぞぉ!!」

「すごい……圧倒的じゃないか」

「あれが、カースタッグ兵……強すぎる」



 村人たちは姿を現し、大男へと駆け寄った。



「いや、どうも」



 戦いの時とは打って変わって、年相応の人懐っこい笑顔の大男。



「ふん、オークキングは私が狩ろうと思ってたのに。生意気だぞ、ウォード」


 

 ブリジットはウォードの腹を突く。

 


「痛い、痛いですよ! 魔力込めて突かないで下さい!」

「あまり調子に乗るなよ、小僧。ドドの一番弟子は私だ」

「いや、分かってますよ。てか小僧て。そんなに歳変わらないじゃないですか」



 ドドの近くでその戦いぶりを見てきた従士見習いウォードは目覚ましい成長を遂げ、落ちこぼれの汚名を見事返上してみせた。



「お前はここにいろ。私とリクは本命を叩く」



 突然変異とは一定の確率で起こる。

 しかし、ハラス因子は感染することで拡散する。

 オークキングが来た先には、別のハラス因子を継承する個体が存在する。


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