5.考察―――ファイトクラブ
ジュエルとドドの戦いを見ていた者たち。
中には特別な才能を持った者たちがいた。
称号は剣聖。
(倒せるな)
試合後でにぎわう酒場で静かに考察する。
ふと聞こえてきた考察に耳を傾けた。
どうやら冒険者らしい。
「遠くから魔法だよ」
「ああそれしかない」
「あの剣が無ければ勝てる」
「そうだ。あの剣さえ」
(違う)
盛り上がる彼らの誰一人として剣聖の至った答えにかすりもしていなかった。
◇
剣聖は後悔する。
自分以外にも答えにたどり着いていた者がいた。
闘技場で目の当たりにするのは正に自分が仕掛けようとしていた策。
それは最も勇気がいる戦い方。
すなわちーーー
「これはすごい! 王者ドド相手に真っ向勝負だ!!」
闘技場で繰り広げられた戦いに観客は沸き立つ。
互いの拳が肉に食い込み、数100キロを超える肉体がはじけ飛び、血が舞う。
オークに対峙しても遜色のない巨体。
「な、なんでだ? あのジュエル様をも追い詰めた肉弾戦でドドに押し敗けてないぞ」
「い、いや確実にドドの攻撃は通ってる。だが後退せずに戦い続けてる」
「無茶な戦い方なのに安定感があるぞ」
(当然だ。ドドはオークだが魔力が無い分攻撃力防御力共に基礎能力は劣る。それを読みと多様な技で補っているに過ぎない。問題はその技だ)
ドドの技術に成す術なく相手は倒されてきた。
しかし唯一、その技には弱点が存在した。
それは並の人間には気づくことができない上に、最も勇気が必要だ。おまけにある程度のダメージを覚悟しなければならない。
ドドを前にそれを実証してみせたのは冒険者。
「9星の英雄職、『雷轟』ユゴル! 竜人族のタフネスぶりを発揮して倒れず流れを寸断する一撃を返します!!」
ユゴルはドドの技と技の切れ間を狙った。
ドドのジャブ、右フック、左ニー、そこからグラップリングに移行する瞬間、動きを止めた。
雷魔法の『纏』、わずかに動きを止める程度の威力。
その一瞬に一撃を返す。
(ドドは多様な技を使うが、技と技の間に繋ぎが存在する)
各格闘技、武術は距離の取り方が異なる。
距離とは相手の相関関係によって築かれる。
ドドは適切な距離とタイミングに合わせて技を繰り出すが、それは繋ぎがあってこそ。
掴み、関節の前の打撃。
ジャブ、フック、サイドキック。
(大技に移行するとき、ドドはやや正対気味に身体を向き合わせる。この瞬間、ドドは攻撃の質が変わる。このわずかな変化の間、隙が生まれる)
だがこの戦法はドドの打撃を食らい続ける覚悟が求められる。
ユゴルは見事、その作戦を完遂した。
ドドの数発より魔力を纏ったユゴルの一発に効果があった。
ドドの身体がぐらつく。
しかしすぐさま反撃が飛んでくる。
ユゴルは守りを固め適切に受ける。
ドドの蹴りを腕を重ねてガード。
交錯する腕。
ユゴルの拳の方が先に届いた。
(均衡が崩れた)
ドドの打撃の内側からユゴルの攻撃が通る。
ユゴルの雷の『纏』がドドの動きを封じ、完全な一撃がドドの顎にヒットした。
「はぁはぁ……」
ユゴルは奇妙な感覚に陥っていた。
どれだけ殴っても、追い込む隙が生まれない。
(なぜ?)
両者の戦いは削り合い。
ユゴルは覚悟の上だったがダメージを重ねても自分の優位から本質が見えていなかった。
ユゴルはダメージを負って息が乱れている。
しかし、ドドは圧力を増している。
危険な賭けに出たユゴル。見事に策がはまったが、ドドにとってそれは意外でもなんでもなかった。
武術や格闘技が統合されてきた近代格闘技において、動きの際を狙うのは常識。
ドドの精神は一切揺らがない。
対するユゴルは精神的プレッシャーの中思考を巡らす。集中に大きな影響をもたらした。
(持久戦でもユゴルには十分勝算がある。焦る必要はない。焦るな、ユゴル)
剣聖が確信した瞬間だった。
ユゴルの身体が弾けた。
「なに!?」
交錯した腕。拳は確かにユゴルの方が早かった。
しかし、ユゴルの拳は逸れてドドの拳が決まった。
そこから再び、怒濤の打撃。
ユゴルは耐える。
(あのレベルで技の練度に差があるのか……!! それに切れ間が、無い……!?)
一種の武術、それもとどまることを知らない水の流れのような連続技。
そこに繋ぎや際などない。
ジークンドー。
最速最短の攻撃で敵を打ちのめす実戦武術。
中国武術にボクシング、フェンシングなど西洋武術の要素を取り込み、攻防を一にする。
不用意に出したガードは打撃のなか掴まれ、態勢を崩すのに利用される。
たまらず雷の『纏』を使う。ドドの動きを止めるためだ。
ユゴルの身体がなぎ倒された。
ドドは『纏』のタイミングで突っ込んだ。今度は技でも何でもない、ただのパワーと勢いだ。
「距離を取らずに逆に飛び掛かるとは」
意表を突かれたユゴルは激突を回避できず衝突した。
すぐさま立とうとする。
観客は騒然となる。
雷属性は属性魔法の中でも最強の一角。
触れた者は成す術無く自由を奪われる光魔法と同じ最速の魔法。
近づくのは自殺行為に他ならない。
しかし、結果ユゴルが吹き飛びドドは動き続けている。
追撃のタックル。
「ぐぅはっ!?」
ユゴルは雷ではなく通常の『纏』で守りを固めた。
雷には帯電の時間が必要だ。
「ぐぅ!!」
すかさず、その『纏』を衝撃が貫いた。
内部破壊の発勁。
ジークンドー系浸透勁。みぞおちに一発。
ユゴルの身体がくの字に折れた。
明らかに性質の異なる打撃音。まるで巨大な太鼓を叩いたような重低音が響いた。
観客が息を飲む。
『纏』が緩む。
一瞬の硬直。
ドド、すかさず顔面への拳。胸部及び腹部への掌底。首へのビルジー、ゼロ距離からの寸勁、鋭い左の肘が脳天へ右掌底が顎に決まった。
青色い紫電が空を枝分かれした。
「―――っ!」
ユゴル、起死回生の放撃『紫電』。
ドドはそれを直感で躱した。
ダッキングから突き上げる拳。
豪快なアッパーがユゴルの巨体を一回転させた。
ぐらりと力なく地面に沈んだままユゴルは動かなかった。
「あーっと!! 決死のタックルからの無常の連打! その後は―――なんかしてましたが早すぎて見えませんでした!! とにかくユゴル選手健闘虚しく敗退です!!!」
無論、この結果は偶然ではない。
ドドは二度、ユゴルの雷魔法にさらされた。
なぜ動けたのか。
ドドには自身を完全に硬直させるだけの感電が何mAか、そしてユゴルの雷の『纏』がどれだけの威力か、その威力を出すために帯電に用する時間を最初に推し量っていた。
スタンガン、テーザーガンを受けた経験と現在の体格から抵抗値を見積もり、50mAまでなら約0.5秒動けると推定。
決して無茶ではない。雷魔法の瞬間、0.06秒の反応でぶちかましを決めた。
「戦闘における技と技の繋ぎ、それはユゴルにもあったか……」
剣聖はにやりとわらった。
ドドに攻略法は存在しない。
そういう相手こそ相手に相応しいのだと。




