12.動き出すハラスの意志―――ネクストゲーム
カースタッグ城では式典が開催されていた。
エルダーオーガの襲撃から3か月。
ついに城市の壁と市街地の再建が終わった。
異例の速さだった。
その場に最大の功労者であるドドがいることは言うまでもない。
ドドにはイリリオから改めて褒賞が贈られた。魔物が持ちえない上等な服に靴、それに特注の外套。どれも一級品だ。
意外なことではない。
ドドという戦力を有する。それをつなぎとめるための投資。
それは領主のイリリオだけにはとどまらず、各地から贈り物外交が活発に。
しかし主役は宴の席にはいなかった。最初のあいさつで少し酒を飲んだあと、人目を引く巨体は霧のように消えた。
完成した壁の上で、ドドは一人佇んでいた。外套や派手な贈り物の服は着ていない。いつもの着慣れた道着のような恰好だ。
そこにブリジットが付きそう。彼女もドレスではなくいつもの装備。
「人気者だな、ドド」
「悪い気はしない」
「退屈なんじゃないか?」
「そう見えたか。少し、祭りの空気に慣れていないだけだ」
傍にいるブリジット。
しゃべらないドド。
彼女は不安になった。
「ドド、ここを離れてどこかに行く気か?」
「なぜ?」
「いや……ここに居ても、ハラスと対峙することはない。代わりに戦う勇者も来ない。ならここに居続ける意味はないだろ?」
だから、ドドをつなぎとめるための贈り物を受け取る気が無い。そう取れる。
「贈り物はいただくさ。本当に悪い気はしていない」
「そうか」
「義理とかじゃないぞ。正直なことを言えば、おれはこのままでもいいと思っている」
「そんな……」
意外な答えだ。
想像もしていなかった。
魔物にされて、しかもオークだ。
いいことなどない。諦めるにも早い。
「元々、あちらの世界でもおれは怪物扱いを受けていた。世界中放浪してまともな人間関係を築いたことも無い。だから、今おれを必要としてくれている人たちの想いはできるだけ受け止めたいと思っている」
彼女は理解した。
ドドは争いが本当に嫌いなのだと。
それでも、必要とされるなら戦う。
「ドドはお人好しだな。本当に」
ブリジットはそう言って抱えていた大風呂敷を解いた。
姿を現したのはブリジットの身長をはるかに超える鉄の塊。
「コスモスは返してしまっただろ? その代わりだ。私から、助けてもらった礼ということで」
オークの手になじむ太い握りの両刃の長剣。
ブリジットは跪いてそれを差し出す。
「これからもご指導お願いします。師匠」
「ああ」
ドドはその剣を受け取り、引き抜いた。
すると歓声が響く。
壁の下で、人々がその姿を称えていた。
◇
状況はドドたちの意志とは関係なく、無常にも悪い流れを辿っていた。
王宮では力を求める男が、ハラスの力に魅入られていた。
男は箱を持っていた。
それは古くから受け継がれてきた封印された箱。
胸いっぱいに希望を込めて男は箱を開け、中を覗く。
黒い粒子が宙に放たれた。
「おお、ハラスよ」
男はその力を受け入れた。
その瞬間、止まっていた破滅への歯車が一つ、また一つと動き出した。
解き放たれたハラスの力を、同じくハラスの力を持つ者たちは嗅ぎ取った。
彼らの間に仲間意識はない。
むしろ、その逆。
誰がその力を独占し王となるか。要は奪い合い。
東にある海洋遺跡。そこは迷宮として冒険者たちが探索に励んでいる場所だった。
盛んだった冒険者たちの行き来が突如止まった。
行方不明者多数。
生き残りの報告。
「戦利品を持った奴がおかしくなった」
「次々と仲間を殺していった」
「拾った奴も人が変わった」
その何かは、人づてに運ばれ、徐々に迷宮の出口へと進んでいた。
塔の魔導師はこの遺跡の古い文献を見つけた。
そこにはハラスの魔導具の記載があった。
「―――ハラスの力があの遺跡に?」
魔導師はハラスの情報に触れる口実を得た。
塔に眠る禁書を探し当て、好奇心でその本を開いた。
「これは……世界を救う力だ」
研究を始めた。
密かに。
自分が正義だと信じて。
北の平原。
魔物たちは慌ただしくテリトリーの奪い合いに励む。
やがて一匹の魔物が成った。
ごく小さなハラスの力をかき集め、それまでとは違う存在へと変わった。
しかし、これではまだ足りない。
より大きな力を求める。
向かうは南。
王都だ。
配下を引き連れ、進軍を開始した。
王都よりさらに南の果て。
その身にハラスの闇を受けた男。
彼は待っていた。




