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9.スパーリング―――ラウンド・ワン


 アキラは思わず、反射的に、生物としての正しい反応として身体をのけ反らした。

 いや、のけ反らされた。

 

 フィンガージャブで先制。目を狙い怯ませる。ただし、ドドの指先はプレートアーマーを貫く。

 上から下へ。予備動作の無いローキック。

 完全に崩れたアキラは『纏』に意識を集中させる。つまりは『亀』だ。


 ドドの打撃の質が変わる。

 芯に残る打撃でも、体勢を崩すような豪打でもない。

 間髪入れず、とにかく早い連打に、パシリとはたく軟打。

  

 アキラは反撃を狙うがタイミングに割り込まれ、いら立ちを募らせた。



(こいつ……、まさか……このおれを相手に?) 


 

 そう、まるでスパーリング。

 確認作業だ。


 立ち関節も挟みながら、フェイントで利用。

 打撃で一定の距離を保ちながら、掴み即極め。

 しかし、極めずに離れ際の肘や掌底。

 再び一定の距離を保つロングガード。即距離を縮めるタックルと見せてアキラの膝蹴りを不発に。

 脚をひっかけ、体勢を崩し、追撃のマシンガンジャブ。

 

 フィニッシュにいかず、極めず、投げず、ただ打撃を重ねる。 


 無論、遊んでいるわけではない。 

 

 CQCでアキラの『纏』の感触をつかんだ。

 ムエタイでいう『触覚』

 相手の隙を探り、有効な打撃の入るポイントや適切な『角度』を割り出す。


 東南アジア武術に精通するジェームズ・ガルシアの常とう手段。

 この男はとにかくしつこい。

 ムエタイ選手のタフネスに、シラットのガードテクニック、近距離での打ち合いで時間を掛けて弱点を探る。ジェームズは陸大相手にフラストレーションを与えるという戦術を取った。

 恐ろしいのはここからだ。 


 打撃の質が変わった。


 

 止めどない連打は上下左右、縦横無尽、時に正面から繰り出される。

 ダメージが通らずとも、一撃一撃がオークの巨腕で振るわれる。

 アキラは姿勢を保もつこともままならない。


(重いっ!?)


 速さや間が同じであることで、生まれる油断。

 加えて打撃の『当て勘』が研ぎ澄まされている。


 ドドは目に見えない魔力の装甲の薄い箇所を的確に突いた。


(さっきの弱い打ち込みの感覚で、おれの無意識の魔力の流れを確認していたのか……!?)


 ジェームズのコンビネーションには拳、肘、膝、蹴りの八部位に加え頭突きがある。

 これを効果的に入れたときの破壊力は計り知れない。


 ドドの頭蓋骨がアキラの顔面に叩き込まれた。

 頭部の『纏』は眼、顎が厚い。

 最初のフィンガージャブと度重なる顎への掌底打ちが、アキラに無意識に打撃への備えを刷り込ませていた。


 もちろん狙うのは鼻だ。


 戦いの中初めて使う頭突き。それはアキラの鼻っ柱を文字通り綺麗に折った。



「ぐっああ!??」


 鼻を折ったことによる激痛と大量の出血。

 それは慣れている者でも相当な心理的ダメージを負う。

 

 しかし、アキラは元勇者。

 そこは彼もまた並みの精神力ではここまで生き残っていない。

 アキラは悶絶したようにみせ、『纏』の応用を繰り出した。魔力の塊を武器に見立てる『纏・形成』

 見えない槍が突き出される。



 ドドは体軸をずらすだけで躱した。

 研ぎ澄まされたドドの聴覚は魔力が放つ独特の音を聞き分けていた。


「な、なんで……?」

「だまし討ちは慣れてるんでね」


 マイクがとった行動はもっとえげつなかった。

 軍隊格闘術のエキスパート、マイク・ホワイト。

 彼は斧牛陸大を拉致するために、某国の先端技術研究所が雇った元特殊工作員。基本戦闘は銃撃、ナイフを持った近接戦。

 戦闘の目的が勝ち負けではなく、相手の戦力をそぐことのため、護身や捕縛と違い、まず撃ってくる。ナイフは初めから動脈を狙い、格闘では常に骨を折りにくる。

 だが最も厄介だったのはその戦術。


 背後からのスタンガンや、催涙ガス、爆弾を使った強襲、狙撃、現地民間人を使っただまし討ち、情報操作、偽造工作による犯罪の捏造などありとあらゆる手を使って陸大を追い詰めた。



 不利なら即撤退。

 撤退と見せかけて闇討ち。


 それに比べれば正面からの不意打ちなど通用しない。

 ドドに言わせれば―――



「生ぬるい」



 アキラは反転、逃走を図った。




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